IDEOのトム・ケリー氏に、デザイン思考の現状と未来について聞いたインタビューの後編。「トヨタ生産方式」を例に挙げながら、組織の壁を越えてアイデアを流通させる仕組みと、常に課題を発見しようとセンサーを磨く意識の重要性を強調する。

トム・ケリー氏
米IDEO 共同経営者
兄デイビッド・ケリー氏が1978年に設立したデザインコンサルティング会社、IDEOの共同経営者として、創業当初から同社の成長を支える。現在は主にイノベーションやIDEOのデザインアプローチをテーマに、各地で講演活動を展開

前回は、デザイン思考を実践しながら、実体験の中で小さな成功体験を重ねていくことが重要で、それにより「クリエイティブ・コンフィデンス」が得られる、というお話でした。

そうです。「小さな成功」が大事なのは、組織内の動き方とも関係してきます。

 会社組織の多くはツリー状になっていて、上から下まで階層がありますね。そのトップにいる社長が、そのポジションにたどりつくのに30年かかったとします。彼らが駆け出しだった頃、つまり30年前には、デザイン思考など聞いたこともなかった。彼らには彼らが信頼し、自信を持っているやり方があります。その意味で、トップがデザイン思考に対して懐疑的な感覚を持ったとしても仕方ありません。

 本音で言えば、トップはデザイン思考かどうかなどどうでもよくて、成功することが最も大事。だから成功事例を紹介できれば、「それを取り入れてみよう」となるものです。これは日本だけでなく、世界中どこでも同じです。

アイデアの共有を妨げる壁を壊せ

 組織のヒエラルキーが強力であること自体は、必ずしも悪いこととは限りません。ただ1つだけ「組織のヒエラルキーが、アイデアをせき止める壁になることだけは、絶対に避けてほしい」。私は企業トップに会うたびに、口をすっぱくしてお願いしています。

 アイデアを持っている新人が、まず自分の上司を説得し、次にその上司の上司、さらにその上を説得し……これではダメです。発案者の努力に頼るのでなく、トップの善意によるのでもなく、組織内のあらゆるアイデアが自動的に上がってくる、組織としての仕組みが必要です。

 実は「トヨタ生産方式」がよい例です。工場でねじを締めている人まで含め、全従業員が常に2つのタスクを背負います。1つは自分の今の仕事をこなすこと、もう1つは、その仕事をよりよくするための方法を考えることです。

 トヨタ方式の目的は、効率化、コストダウン、スピードでした。これと全く同じことがクリエイティブなアイデアにも必要なのです。コスト削減のためのアイデアと同じように、クリエイティブなアイデアを考え、それを共有する仕組みが要るのです。

面白いやり方をしている例などありますか?

いろいろな形があります。1つはオープン・イノベーションと言われるもので、すでにかなり話題になっていますね。

 米スリーエムでは「ポスター・デー」というイベントで、社員が自らのアイデアをポスターの形にして社内で発表し、共有しています。似たような取り組みは米P&Gにもあります。「フラッシュポイント」というイベントです。世界に広がる3000もの事業所から、1つずつえりすぐりのアイデアを持ち寄って発表する、大展示会を開きます。3000人が1つずつアイデアを出展し、同時に他の展示を見て、5つのアイデアを自分の事業所に持ち帰り、実施する。できなければマイナス査定ですから、みんな真剣です。

 そこに組織の上下は関係ありません。部門の壁、国境の壁を越えて、アイデアを自由に流通させる仕組みです。

デザイン思考の“進化系”とは?

これからのデザイン思考のありかた、進化形のようなものは考えられていますか?

1つはすでにお話しした、クリエイティブ・コンフィデンスです。理解することの次の段階として、実践に基づいた身体化──つまり腑(ふ)に落ち、しっかりと腹落ちする段階です。これは個人レベルだけでなく、組織レベルにもあります。

 もう1つが、デザイン思考と他のものとの組み合わせです。先程お話ししたトヨタ方式は、過去のものとして葬り去られたわけではなく、その上に他のものが積み重ねられ、進化しています。同じようにデザイン思考も「終わって、置き換わる」のではなく、他の要素と組み合わせて生かされるようになっていくと考えています。

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