IDEOのトム・ケリー氏は、創立者の一人である実兄デビッド・ケリー氏と共に実務に携わる傍ら、『発想する会社!』『クリエイティブ・マインドセット』などの著書でデザイン思考を紹介してきた。今やイノベーションへ向けた定番のアプローチとなったデザイン思考の現状と未来について聞いた。

トム・ケリー氏
米IDEO 共同経営者
兄デイビッド・ケリー氏が1978年に設立したデザインコンサルティング会社、IDEOの共同経営者として、創業当初から同社の成長を支える。現在は主にイノベーションやIDEOのデザインアプローチをテーマに、各地で講演活動を展開

日本のIDEOではどんな取り組みを?

ここでは主に、3種のビジネス分野に取り組んでいます。1つがIDEOとして最もよく知られているコンサルティングです。デザイン思考を活用して新たなビジネスを創出したいクライアントをサポートし、メンターとして、ときに共創の仲間として、クリエイティビティを解放する手助けをしています。

 2つ目が教育・学習事業。子供たちへのクリエイティブ教育はもちろんですが、デザイン思考を基礎から学んでみたい一般の方々や、エグゼクティブへの教育などにも力を入れています。

 それから3つ目。これは日本だけで手掛けている事業で、ベンチャーキャピタルです。

日本はもっとベンチャーが活躍していいはず

なぜ、日本でベンチャー支援の事業を始められたのですか?

これは「D4V(Design for Ventures)」という事業で、私がチェアマンを務め、現在40社の日本のスタートアップに投資しています。併せてデザイン思考を活用したサポートを行っています。目的は日本における起業を促進することです。

 日本は世界的に見ても、起業家が育っていません。各国の起業活動率を示すTEA指標(Total Early-Stage Entrepreneurial Activity)で見ても極端に低い。世界3位の経済規模を持ち、教育レベルも高く、勤勉な国なのに、それはおかしいと思います。

 日本では全企業に占めるベンチャーの割合はごくわずかです。この比率を逆転させる必要はありませんが、もう少しベンチャーが増えたほうが、既存の企業を含めた全体のためにもよいはずです。

 D4Vは、日本はもちろん世界における様々な課題に取り組むスタートアップを支援しています。ヘルステックスタートアップのUbieや、ファッションECサイトでサイズ感が直感的にわかるサービスを提供するVirtusize、AIを用いた社会課題解決に取り組むEXAWIZARDSなど、様々な業種にわたる投資先企業の中から、1つ、面白い例を紹介しましょう。「Air Closet」という、ファッションのサブスクリプションビジネスです。

 主な顧客は働く女性で、毎月、その人に合わせてスタイリングした服の詰め合わせを届けるのです。その中に、普段なら本人が選ばないような服を少しだけ混ぜておきます。そして「気に入ったものを買い、残りは返品する」だけでなく、購入を決める前に1カ月間は自由に着られます。

 普段は選ばないような服も、「1カ月も手元にあるんだし、一度着てみようかな」と思ってくれればしめたもの。職場で「そういうのも似合うじゃない!」と言われると、新しい世界が広がります。

 このサービスのポイントは2つあります。1つは相手の好みを理解しつつ、半歩先を提案するスタイリング。もう1つは、戻ってきた服を新品同様にクリーニングしてまた送り出す、細やかなケアです。

 彼らはこのモデルを立ち上げたはよいが、ウェブサイト訪問者が実際に申し込む「オンボーディング」のステップで苦労していました。私たちはそこをデザインスプリントによって後押しし、申込率の向上に貢献しました。小さなスタートアップの支援は私たちとしても初心に戻る感覚で、楽しい仕事です。

発表から18年、デザイン思考はこう変わった

IDEOの提唱してきたデザイン思考は、この十数年でかなり広がり、大きな話題にもなってきました。

最初から「デザイン思考」と呼んでいたわけではありませんが、こうした考え方はIDEO創業初期の1978年からありました。初めて幅広く発信したのは2001年に発行した書籍『発想する会社!』(日本では2002年刊)です。

 デザイン思考の浸透ぶりは、おっしゃるとおりです。私の娘と息子は工学系で、1人はプリンストン大学、もう1人はカリフォルニア大学バークレー校に進みましたが、2人とも、授業で『発想する会社!』を読んだそうです(笑)。ほんの数年前の話です。

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