2020年4月に開始された全国個人視聴率の提供などにより、広告主が入手できるテレビデータの整備が進む。それらがマーケティングにどう活用できるかを本連載で解説してきた。ただし、課題も残っている。そこで2回に分けて、テレビデータが抱える課題について考察していこう。
まず、「テレビデータ」とは、広告主がテレビCMに投資するための判断材料となるデータを指す。テレビCMがいつ放送され、どのように⾒られたかというデータであり、次の4つの要素に分解される。(1)ターゲット、(2)クリエイティブカバレッジ、(3)エリアカバレッジ、(4)データ量(尺度と期間)である。
この4つの要素に沿って、テレビデータにどのような課題があるかを考えていこう。最初はターゲットだ。広告主にとって、自社が出稿したテレビCMを誰が見ているか、狙い通りターゲットに届いたかどうかが重要だ。視聴者の属性などのデータ取得が課題となる。
以前から入手できる代表的なテレビデータであるビデオリサーチの視聴率は、F1(20~34歳の女性)、M1(20~34歳の男性)といった15歳刻みの性年齢別の区分で見ることができることはよく知られている。しかも、2020年3月からは全国で性年齢別のデータが入手できるようになった。
ビデオリサーチのパネル調査型データは、20年3月に関東で3倍の2700世帯と大きく調査世帯数が増えたものの、まだまだ調査サンプル数が少ないことに対する推計の信頼性や、性年齢以外のデモグラフィックデータおよびライフスタイルなどの情報をより詳しく知りたいという要望が広告主からは挙がっていた。これに対して、テレビデータの新興勢⼒として期待されたのが全数型データだ。数⼗万台のテレビから取得したテレビログ(ネット接続テレビの視聴履歴)データを指す。
では、各データの推定精度はいかほどか。前述のビデオリサーチの視聴率は、専⽤の機器をあらかじめ登録された調査対象世帯に配ることで誰が⾒たかを取得している。それを統計学を⽤いて、エリア全体に拡⼤推計する。もちろん誤差もあるのでその範囲は、ビデオリサーチのWebサイトで公表されている。
個人情報保護がテレビログに与える影響
一方、市販のテレビログの視聴者属性データを扱う事業者は、家の中で利用されたパソコンやスマートフォンのアクセスログを収集し、どのようなコンテンツを閲覧しているかを分析することで、誰が見ていたかを推定する手法を用いる。データが膨大なため、細かく視聴者の属性などが分かると勘違いされることが多いがそれは間違いだ。考えてみたら分かるが、市販のテレビのリモコンに、「誰が」見たかを特定するようなボタンや仕組みはない。
複数のデバイスのデータのひも付けは、パーソナルデータ保護の観点から課題が残る。GDPR(一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)などの施行による、個人情報やアクセスデータ保護が進んだことで事業に制限がかかった。さらにCookie活用の規制も本格化する中、今後このようなデータが使えるかどうか、また、どちらの推計/推定データを信じるかは、テレビデータを活用する企業として考えるべき課題である。
一方、広告主側のプランニングの段階では、性年齢以外に視聴者のライフスタイルなどを深く知りたいという広告主の要望に対して、調査対象世帯から詳細な趣味嗜好情報を集めているデータもある。しかし、⽇本のテレビ番組の内容⾃体が、それほど趣味や嗜好によって細分化されていないため、オーディエンスだけを細かい粒度で分解しても実務として使える範囲は限定的だ。
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