テレビデータの変⾰により、テレビCMの効果測定の精度は⾶躍的に向上した。本連載ではこれまでエリアやターゲット層別に効果測定を行い、PDCA(計画、実⾏、評価、改善)を回して効果を上げる方法を紹介した。今回はもう1つの大事な要素、広告クリエイティブについて取り上げる。

 今回はデータ・ドリブンなクリエイティブの効果測定を手法解説する。広告主にとって、テレビCMの広告クリエイティブ評価は⻑年の課題だった。従来は被験者を集めて実験環境での強制的な視聴と、視聴前後の態度変容を測るアンケートを組み合わせた意識調査が主な⼿法だった。

 しかし、実験室での実験は普段と視聴環境が異なるし、アンケートで意識の変化を申告させてそれを態度変容と呼ぶには無理がある。バイアスも多く、再現性と信ぴょう性が⾼いとは⾔えなかった。一方、より科学的にクリエイティブを評価しようという試みもある。被験者の脳波を測定してCMへの注⽬度や感情を測ったり、視聴姿勢や視線追跡で関⼼の⾼さを測ったりするものだ。しかし、そもそも脳波や視線が購買にどれほど影響しているかは分からない。そしてどの手法も取れるデータが少ない。

 だが、テレビデータの変⾰によって、従来のクリエイティブ調査の限界を越えることが可能になった。ネットでの商品名による検索数やWebアクセス数といった、購買と密接なKPI(重要業績評価指標)とCMのクリエイティブの関係性を、アクセス解析やネットの購買履歴といった全数データで分析できるようになった。これがテレビデータの変⾰が広告主企業に与える第3の影響だ。この新たな効果測定を「ファクトデータによるクリエイティブ効果測定」と呼ぶ。なお、第1の影響「テレビCMの投資対効果が明らかになる(関連記事)」、第2の影響「テレビCMの効果を上げるターゲット管理が可能(関連記事)」はそれぞれ連載の中で紹介している。

行動データに基づく「ファクトデータによるクリエイティブ効果測定」が新たなテレビCMのクリエイティブ評価手法として重要になる
行動データに基づく「ファクトデータによるクリエイティブ効果測定」が新たなテレビCMのクリエイティブ評価手法として重要になる

 「ファクトデータによるクリエイティブ効果測定」が可能になった背景には、データの充実と解析する環境の整備といった技術の進歩がもたらした以下の4つの環境変化がある。

  1. エリア別のテレビCMの放送データが入手可能になった
  2. 「Google Analytics」による検索・アクセスデータ解析の普及
  3. デジタルマーケティングの普及によるABテストの定着
  4. コンピューター処理能力向上による機械学習の一般化

 これらによって、ファクトデータによるクリエイティブ効果測定が可能になった。その測定法はダイレクトマーケティング企業、消費財メーカー、⾞や住宅などの耐久消費財メーカーなど業種を問わず効果を発揮する。具体的な⼿法を解説しよう。

 まず保険、健康⾷品、IT系サービス、ゲームアプリといったテレビCMからすぐにレスポンスを求めるダイレクトマーケティング企業だ。広告効果をテレビCMからダイレクトに誘因される売り上げや問い合わせ数、アプリのダウンロードといったKPIで効果測定できる。この場合、競合他社と⾃社のテレビCMの全放送時点データが分かれば放送時点ごとにKPIの数字を把握できるので、複数のクリエイティブを⽐較した効果測定もしやすい。

平時のKPIをベースに比較して評価

 効果測定をする場合、前提条件としてテレビCMを放送していない平時のKPIを把握しておくことが必要だ。例えば、Webサイトへのアクセス数をKPIとする場合、CMを放送していない時のアクセス数をベースラインとして算出し、テレビCM放送時のKPIの上昇量を分析する。その際、重要になるのが競合他社もテレビCMを放送していることを考慮することと、テレビCMの残存効果を適切に推定することである。残存効果とは広告との接触後、徐々に減衰はするが効果は⼀定期間続くという考えだ。

平常時のKPIをベースラインに設定して、テレビCM放送後の上昇効果を測定する
平常時のKPIをベースラインに設定して、テレビCM放送後の上昇効果を測定する

 全国すべてのテレビCMの放送1回ごとに対して、競合他社や残存効果を考慮することにより、各放送ごとのテレビCMの効果がより正確に測定できる。これを放送局別やエリア別に集計すれば、放送局ごとのテレビCMのROI(投下資本利益率)やエリアごとのROIを測定でき、PDCAをエリア単位で回せる。これを応⽤し、広告クリエイティブ単位でテレビCMのROIを集計すれば、広告クリエイティブごとの効果をそれぞれ割り出せる。

 このファクトデータによるクリエイティブ効果測定のアプローチは、テレビCMの放送による成果(検索数の上昇率など)から逆算して広告クリエイティブごとに効果を分解していくアプローチである。少数の実験サンプルではなく全数の実⾏動データで分析することで、客観的にクリエイティブを評価できる手法である。

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