個人のデータを取得して活用するマーケティング手法は多くの企業に広まったが、多くの消費財メーカーにとって必ずしも最適ではない(関連記事「データマーケティングを正しく理解 DMPは個人特定マーケではない」)。「個人」はマーケティングの単位として細かすぎて、効率が悪いからだ。そのため「エリア単位」が有効だ。第2回はその理由とエリアマーケティングで効果を上げるための方法を紹介する。
エリア単位のマーケティングが、消費財メーカーにとって有効であることの理由は4つある。1つ目が「営業組織との連携」だ。多くの消費財ブランドは、流通小売りとの交渉や販促活動のために、営業組織をエリアごとに組織していることが多い。営業活動の現場がエリア単位で動いているのであれば、マーケティングの上流工程や広告宣伝もエリアごとに企画するのは理にかなっている。
次に「テレビの放送エリア」との一致だ。メーカーの広告宣伝費の多くを占めるテレビの放送単位は(広域圏を除いて)都道府県と一致している。エリア単位でエリアの状況に合わせて最適に広告宣伝費と営業販促費、いうなれば「空中戦」と「地上戦」をコントロールすることが理想的だ。
3つ目の理由は「地域別の嗜好性」。消費財の嗜好(食品、飲料など)はエリアごとに異なることが多い。例えば、食品や飲料は地域によって味などの嗜好性が異なる。また、洗剤やエアコン、車などでも地方によってニーズは異なることがある。
最後は「メディア接触状況」だ。天気や気候、主な交通手段によって、メディア接触状況も地方によって違いがある。冬が厳しく長い北国では在宅率が高く、1日当たりのテレビの視聴時間は長くなる傾向にある。車通勤が当たり前の地域では、通勤時にSNSなどを閲覧する時間はほとんどない。
これらの理由から、マーケティングをエリア単位で行うことは有効だといえる。さらに、広告宣伝と営業を密に連携することは、非常に合理的でもある。しかし、そうはなっていない理由がある。これまでは日本経済が全体として右肩上がりで成長していた。そのため、きめ細やかなマーケティングは必要なく、最も人口が集中している東京を中心に物事を考えるだけでよかったのだ。
テレビ放送とテレビCMの仕組みも、この東京中心のマーケティングと相性がよかった。日本の地上波テレビ放送は都道府県単位が基本だが、関東、近畿、中京エリアだけは、複数の都府県を併せた区域になっており、広域圏と呼ばれる。つまり東京を対象にすると関東一都六県、日本の全人口の3割強をカバーできるのだ。さらにそこにネット番組、ネットCMという、全国一律の時間にキー局のネットワーク系列局で、同じ番組やテレビCMを流す仕組みがあった。東京を中心にCMを計画するだけで、地方のことはあまり細かく考えなくても全国をカバーできて非常に効率的だった。
ところが、このようなテレビのマーケティングの大前提であった日本全体の成長は鈍化傾向にある。また、データを細かく取得して、精緻に効果分析できるデジタルマーケティングの普及などにより、従来型のマーケティング予算にも、きちんとしたファクトとストーリーによるアカウンタビリティー(説明責任)が求められる時代になった。
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