※日経トレンディ 2019年12月号の記事を再構成
日経トレンディが選んだ「2020年ヒット予測ランキング」8位は「ASMR(エーエスエムアール)」。若者発の「快感音」ムーブメントが一気に広がる。睡眠&リラックス系アプリが台頭。商品開発やブランディングなど、企業活用も加速する。時代は“フォトジェニック”から“音ジェニック”へ。
【8位】快感音ジェニック ASMR(エーエスエムアール)
睡眠系アプリに脚光。商品開発やマーケティング活用も拡大
耳かきをする音、揚げ物を食べる音、スライムを握る音……。今、YouTubeやTikTokなどの動画アプリには、こんな音を収録した異色の投稿が目立つ。その正体は「ASMR動画」だ。
ASMRとは、聴覚への刺激で得られる快感や心地よさ、ゾクゾクした感覚を指す。ASMR動画は、そしゃく音や環境音の他、ささやき声などをリアルに収録したものが一般的だ。「LisPon」など、声や音に特化したアプリも登場し、ASMR動画のクリエイター「ASMRist(アスマーリスト)」には多くのファンが付く。「JC・JK流行語大賞」(AMF調べ)のコトバ部門で2019年上半期1位に選ばれるなど、若者を中心にトレンドとなっている。
そんな若者発のムーブメントが、20年には一気に拡大する。なかでも注目なのが、睡眠市場だ。
ASMRビジネスで先行する米国では、睡眠やリラックス目的のASMRアプリが市場をつくっている。代表格の動画アプリ「Tingles」が熱狂的ファンを抱え、人気ASMRistには投げ銭が集まる。日本でも既にアプリが公開され、今後注目を集めそうだ。日本は先進国のなかでも睡眠時間が突出して短い。睡眠改善ニーズが高く、新機軸の動画アプリとして定番化する可能性を秘める。
一方、企業もASMR動画・音声の制作や活用に乗り出し始めている。例えば、本を朗読したオーディオブックを配信するオトバンクとquantumは、共同でオーディオレーベル「SOUNDS GOOD」を開始。東京ガスの工業用バーナーの燃焼音など、現場でしか聞くことができない貴重な音をASMR音源化し、ブランディングに活用する。「アーティストとのコラボを通じ、固有の音を楽曲化することで若者などにも広がりやすくなる」(quantumの安藤紘氏)という。
また、商品の開発やマーケティングに活用する動きも広がる。日本ケンタッキー・フライド・チキンは19年4月、数量限定の「パリパリ旨塩チキン」の発売に合わせ、そしゃく音を押し出したネット動画を配信。菓子や家具メーカーなども活用を進めており、様々な業界に波及するのは必至。フォトジェニック、ムービージェニックに続き、「音ジェニック」が幅広く浸透するはずだ。
●ASMRとは
Autonomous Sensory Meridian Responseの略。聞くだけで快感や心地よさなどを感じる反応を指す
個人から企業まで“快感音”があまねく広がる
【企業ブランディング】
【ASMRist配信】
【睡眠アプリ】
【商品宣伝】
●録音グッズにも注目が集まる
ASMR動画の収録には、その場にいるような臨場感を再現できるバイノーラル録音に対応したマイクが最適。耳の形を模したものが主流だが、スマホに取り付ける低価格モデルも登場。下は海外のクラウドファンディングで人気を集める「Q Mic」