シアトルを拠点に置く急成長中のスタートアップに焦点を当て、その企業の特徴を紹介しつつ、経営者にインタビューする。後編(第4回)は、前編(第3回)を踏まえ、ブルー・カヌー・ラーニングのサラ・ダニエルズCEO(最高経営責任者)の話を聞く。
ブルー・カヌー・ラーニングCEOサラ・ダニエルズ氏インタビュー
ブルー・カヌー・ラーニングCEOのサラ・ダニエルズ氏に、発音矯正アプリ開発に着目した理由、企業のきっかけや今後の戦略を聞いた。
発音矯正メソッドをデジタル化したアプリを開発するきっかけは?
ダニエルズ氏 言葉は大切です。どんな話し方をするかで、私たちは瞬時に相手のいろいろなことを判断しています。英語は事実上、世界の共通語になっていますが、残念ながら簡単な言語ではありません。きちんと発音できなかったり、自信が無さそうに発音すると、そのことだけで「大して重要ではない」と思われてしまったり、ひどいときには差別の対象になることもあります。
特に発展途上国では、英語が流ちょうに話せるかで収入の差が大きくなります。米国で暮らす移民にも、同じことが言えます。これは、英語をきちんと話すためのお手伝いをすれば、米国内だけでなく世界の国々でも、多くの人の人生を大きく変えられるかもしれないということだと思ったからです。
AIインストラクターをモデル化する際に苦労したエピソードを
アレクサのような既存の発話認識エンジンは、たとえ発音が少し間違っていても、その人が何を言おうとしているのか認識できるように学習していきます。一方ブルー・カヌーは、その真逆をしないといけなかったのです。お手本となる発音と、ユーザーの発音が少しでも違ったら、それを的確に指摘しないといけません。それが技術面で最も苦労した点でした。
結局は、特定の分野に特化したミニ発話認識エンジンを複数開発することで対応することにしました。そうすることで、かなり幅広い発音課題をカバーできるようになりました。例えば、1つの母音の音を詳しく解析、LとRを混同する間違い、アクセントを置く場所や長さ、英語にはない巻き舌のRなどが出てしまう場合などを、1つひとつ分析して認識できます。このエンジンの確度を連日向上させるのに役立てているのが、ユーザーからの膨大な量の発話データです。
例えば、LとRの混同をより正確に察知するようエンジンをトレーニングしたいとしましょう。まずはブルー・カヌーの保有する発話データのライブラリーの中から、LとRをよく混同する日本語ネーティブの録音データで、LまたはRが単語の最初に出てくるインスタンスだけを集めます。そしてそれに対して、我々のエンジンがどのような指摘をするか分析します。その結果を基にプログラムを修正し、満足する結果が出るまでこのプロセスを繰り返します。これは非常に強力な改善プロセスで、弊社のエンジンの確度を非常に高く保つのに役立っています。
起業のきっかけは?
会社を立ち上げる前は、2年間、仕事をせずに過ごしました。ある上場企業のCMO(最高マーケティング責任者)を辞めて一息つき、次は何をしたいのか模索したかったからです。たどり着いたのは、自分が熱意を持って取り組める重要な社会課題を、小規模な企業を作って解決したい、という思いでした。
CTO(最高技術責任者)で共同経営者のトニー・アンドリュースと話をしたのが2016年末でした。画期的な発音矯正の手法(カラー・バウル・システム)を開発した人がいて、AI(人工知能)と発話認識のテクノロジーを使えば、その手法を世界中の英語学習者に使ってもらうことができる、と彼は語りました。トニーは17年間、米マイクロソフトでプリンシパル・アーキテクトを務めたベテラン技術者で、過去に起業経験もあります。私が取り組むのは教育かヘルスケアのどちらかと決めていたので、「これだ!」と思い、すぐに市場調査を始めたのです。
シアトルは「ロー・キー」なところが特徴
会社で、一番自慢できるところは?
それはもう、「多くの人の手助けになるプロダクトを作っている」という点につきます。
英語学習中のユーザーからは、「本当に効果があった」「自分の言っていることが分かってもらえた」といううれしいフィードバックがあります。英語を教えるインストラクターからも、「こんなに効果的・画期的な発音矯正の手法は他にない」と言ってもらえています。
社員たちも、それぞれが取り組んでいることが「より多くの人が、より正確な英語を話すようになる手助けをする」という会社のミッションに直結しているので、やりがいを保ちやすいようです。
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