シアトルを拠点に置く急成長中のスタートアップに焦点を当て、その企業の特徴を紹介しつつ、経営者にインタビューする。後編(第2編)は、前編(第1回)を踏まえ、ソフトウエアを開発するデベロッパーや企業向けに、本人認証技術を提供するオース・ゼロ(Auth0)のユヘニオ・ペースCEOに話を聞いた。
オース・ゼロCEOユーヘニオ・ペース氏インタビュー
オース・ゼロの共同創業者兼CEOユーヘニオ・ペース氏に、急成長の理由や今後の展開について聞いた。
オース・ゼロが提供する本人認証サービスは、どういうものですか?
ペース氏 ウェブサイトでもアプリでも最近では車でも、ソフトウエアのプロダクトであればすべて、まず初めにしなければいけないのが本人認証です。誰が何にアクセスできるか、ということを管理する必要があるからです。様々なソフトウエアのプロダクトを作っている開発者や開発会社向けに、本人認証が簡単に組み込めるプラットフォームサービスをオース・ゼロでは提供しています。
本人認証というのは、コンピューターサイエンスの分野ではとても古くからある仕組みです。インターネットができ、クラウドコンピューティングの技術も進んだことで、正確に本人を認証するという本来ならとてもシンプルであるべきことが、どんどん複雑になっていきました。
今、どの企業もソフトウエアで事業を稼働させています。例えばホテルや航空会社は、ソフトウエアがなければ、客室もフライトも提供できません。ソフトウエアに共通する最も基本的な課題である本人認証を簡潔にすることで、開発者をもっと自由にでき、彼らが、イノベーションを生み出すことにもっと集中できるようになります。
デベロッパーを楽にするのは書籍でなく「プロダクト」
本人認証で起業しようと思ったきっかけは?
12年に起業を決意する前は、マイクロソフトでソフトウエアのエンジニアとして13年間働いていました。最後の5年間はクラウドコンピューティングに携わっていました。クラウドというコンセプトがビジネスに受け入れられていく時代の変革が感じられる、とてもやりがいのある仕事でした。
そこで取り組んでいたのが本人認証の分野で、09年には自分の知識の集大成として書籍を出版しました。しかしそのすぐ2年後、技術の進化があまりにも速く、内容を改定して第2版を出しました。書くことが多すぎたので、本の厚みは初版の約2倍になっていました。
更に翌年、第3版を書こうとして、本の厚みが第2版のさらに倍以上になることに気づきました。こんなに分厚い専門書を、今アプリを作っている最中のデベロッパーが読むとは到底思えませんでした。こんなことをしても誰の何の役にも立たないのではと、自問自答を重ねました。
その結果、書籍を執筆する代わりに、実際にデベロッパーが今すぐ使える、シンプルで導入しやすい本人認証のプロダクトを作ったらどうだろう、と考えたのです。
急成長する企業としての「根幹」は何でしょう?
大学で電気工学を学び、地元のアルゼンチンで製薬会社向け顧客管理システムを提供する会社を起業しましたが、うまくいきませんでした。その後、アルゼンチンのマイクロソフトに入社し、34歳の時にシアトル本社に転勤となりました。ビジネスを学び、世界各国を飛び回った経験は、私の人生に大きな影響をもたらしています。
もう一度起業に踏みこむことになるきっかけは、妻でした。マイクロソフトでの生活から新しい挑戦に興味を持ち始めたときに「絶対にやって」と背中を押してもらったのです。妻が起業から撤退判断までのタイムラインをきっちり作ってくれました。おかげで事業の立ち上げにとても集中できました。
1年間アルゼンチンで徴兵された時の経験もとても大きいです。大学で勉強したいからといって先延ばしにしていましたが、リーダーシップを実践するとても良いトレーニングになりました。今、手元にあるものでベストを尽くしてみる。そしてそれが完璧でなくても、自分がそうやって作ったものに誇りを持つこと。これは、今のオース・ゼロのコアバリューにもなっています。
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