東京オリンピック・パラリンピックが開催される国立競技場には外国人や障害者、性的少数者など多様な人々が訪れる。そのため、幅広い属性の人にとって使いやすい機能が求められる。トイレとサイン計画、スタンドの椅子を中心に、ユニバーサルデザイン(UD)の実態をリポートする。
「世界最高水準のユニバーサルデザイン(UD)を実現した」――。安倍晋三首相は、2019年12月15日に開催された国立競技場竣工式の壇上で誇らしげに語った。
UDは、年齢や性別、文化、言語などの違い、障害の有無や能力差などに関係なく利用できることを目指したデザインのこと。政府は15年7月に国立競技場整備計画をゼロベースで見直すことを決定。同年8月に「世界最高のUD」や「アスリート第一」などを基本理念とし、できる限りコストを抑制する新たな整備計画を策定した。冒頭の安倍首相の発言は、UDを導入した国立競技場が完成したことを内外に宣言したものだ。大成建設、梓設計、隈研吾建築都市設計事務所の3社が計画に沿って、国立競技場の建築設計を手掛けた。
第1回 国立競技場の隈研吾氏 目指したのは「地味な幸せと和の本質」
第2回 国立競技場の設計者、隈研吾氏が語る住民視点と「負ける建築」
第3回 国立競技場 大成建設設計部長が語る日本らしさと暑さ対策
第4回 今回
「UDにはあらかじめ決まった答えはない。多くの人の意見をできるだけ取り込んで反映していく地道な作業の連続」と国立競技場整備事業で設計管理技術者を務めた、大成建設設計本部 建築設計第二部部長の川野久雄氏は話す。事前にUDの関係団体(車椅子使用者、高齢者、子育てグループなど)を招き、合計21回のワークショップを開催。実物大のモックアップを示して、当事者が不便に感じる箇所などをヒアリングした。エレベーターのボタンの色や間隔、車椅子使用者用トイレの便座の高さなど、設備の使いやすさを細部に渡って検証し、小さな改良を繰り返したという。
トイレの距離が分かるマップを掲示
国立競技場で「世界最高水準のUD」がどのように実現されているのか。
まず、来場者にとって広い競技場の中でどこにトイレがあるかが問題になる。トイレには、男性、女性、多目的などいくつかの種類がある。初めて訪れた人でも、自分が探しているトイレをすぐに見つけられる必要がある。こうした課題を解決するため、スタンドの至るところにトイレを含む設備の場所を表示したマップが掲示されている。男性用、女性用、車いす対応などの種別も明確だ。
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