国立競技場は東京オリンピック終了後にレガシーとしてさまざまな用途に活用される。設計に関わった隈研吾氏は、競技場が永く愛されるためには、「近隣住民の視点」が欠かせないと語る。周囲の環境に配慮した競技場への思いから、現代に求められる建築の条件に話は及んだ。
建築家、東京大学教授
■ インタビュー前編
2019.12.16公開
国立競技場の隈研吾氏 目指したのは「地味な幸せと和の本質」
旧国立競技場(正式名称「国立霞ヶ丘陸上競技場」)が60年以上使われたのと同様に、新しい国立競技場も2020年の東京オリンピックが終わって以降、長く使われることになります。この点はどのように意識されていましたか。
隈氏 隈研吾建築都市設計事務所から国立競技場までは徒歩圏内です。だからある意味“近隣住民的な視点”で設計してきました。近隣住民としてはオリンピックの後のほうがむしろ大事です。
学生時代、国立代々木体育館内のジムに通うために歩いた外苑西通りは、今、事務所への通勤路として使っています。そこから見えた旧国立競技場は、コンクリートの要塞みたいな印象で、なんとなく怖くて、あえて近づこうという気にはなりませんでした。近隣住民としては、スポーツに使っていないときにも楽しい雰囲気が欲しいと感じていました。
国立競技場の5階部分に「空の杜(もり)」をデザインしたのは、楽しい雰囲気をつくる狙いがありました。地上30メートルの所で競技場をぐるっと1周できる遊歩道です。
米ニューヨークにはビルの絶景を高い場所から楽しめる空中公園「ハイライン(High Line)」があります。そこを歩いてすごく気持ちいいと感じました。近隣住民としてはハイラインのように東京を楽しめる場所ができたら自分も行きたいし、若い人もきっとデートで使いたいでしょう。
今回、国立競技場の周りにせせらぎを設けたのも、同じ考えからでしょうか。
隈氏 旧国立競技場ができる前は、この地を渋谷川が流れていました。渋谷川は童謡「春の小川」のモデルとなったことでも知られています。その記憶を継承するものとして、せせらぎをつくることにしました。流す水は雨水を循環させています。水辺があると子供はすごく喜ぶので、家族連れで楽しめる場所になるとうれしいですね。
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