2030年に新市場をつくるべく挑むもう一つのスタートアップ企業が、農業システム開発のネイチャーダインである。太陽光と自然原理を生かして全自動で農作物を生産できるシステムで「持続可能な開発目標(SDGs)」のいくつかの課題を解決しようと試みる。個人でも再生可能エネルギーの恩恵にあずかれる新市場「モバイル・サステナブル・エネルギー」が、ここから生まれる。

特許取得済みの自社技術「SoBiC」(ソビック)によって、電気や機械に頼らずに全自動で農作物を生産できるようになる
特許取得済みの自社技術「SoBiC」(ソビック)によって、電気や機械に頼らずに全自動で農作物を生産できるようになる

 「今世紀の戦争は『石油』を巡って戦った。次の世紀の戦争では、『水』を巡って戦うことになる」。1995年、世界銀行のイスマイル・セラゲルディン副総裁はこう世界各国に警告した。それから約25年。地球の人口は増え続け、世界の水問題はさらに深刻さを増している。

 「目標6:すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」――。国連が推進するSDGsにおいても、17の解決すべき課題の一つに水問題が含まれている。安全で安価な飲料水を飲めない人々を減らし、水不足で農業ができない土地をいかになくすか。2025年に約81億人、2050年には約96億人と人口がさらに増える中、セラゲルディン氏が危惧したように、水の希少価値を巡って人間同士が殺りくを繰り広げることだけはなんとしても避けなければならない。

 この水問題に対して、斬新なアプローチで解決を試みるスタートアップ企業が日本にある。ネイチャーダイン(東京・文京)がそれだ。限られた水を使って、しかも電気にも機械にも頼らず、全自動で農作物をどこでも生産できるモバイルな環境づくりに挑んでいる。代表取締役社長の中島啓一氏は、SDGsの「目標2:飢餓」や「目標8:エネルギー」もまとめて問題を解決できるはずだと考えている。

電気も機械も使わずに自然原理だけで農作物が育つ

 「日の当たるところに設置しておけば、ほったからかしでトマトやジャガイモなど何でも育つ。それも2倍以上のスピードで」。特許取得済みの自社技術「SoBiC」(ソビック)の先進性について、中島氏はこう胸を張る。

 にわかに信じられないSF小説の中の話に聞こえるかもしれない。ただ、実はシンプルな自然原理に基づいたものだ。SoBiCシステムでは、太陽の日射熱によって空気が熱膨張と熱収縮する際に生まれる圧力を利用できるポンプを搭載している。これで、電気も機械も使わずに水を自然のリズムで自動的に循環させることができる。水を掛け流しせずに済むので、農作物を育てる際に必要な総水量を減らせるわけだ。

SoBiCの外観。手前にある2つの円筒がエアチャンバーで、これがポンプの役割を果たす。真ん中のグレーのタンクを挟んで左右に土の入ったカートリッジバッグがある。この写真では各カートリッジバッグにトマトの苗木が植えてある。右端のタンクには補充用の水が入っている
SoBiCの外観。手前にある2つの円筒がエアチャンバーで、これがポンプの役割を果たす。真ん中のグレーのタンクを挟んで左右に土の入ったカートリッジバッグがある。この写真では各カートリッジバッグにトマトの苗木が植えてある。右端のタンクには補充用の水が入っている

 太陽の光がエアチャンバーと呼ぶ黒いスポンジが入った透明のペットボトルに当たると、日射熱で内部の空気が温められて気体が熱膨張する。この際生じる圧力でタンクにある水が押し出され、農作物の上部から給水される。そして夜間には温度が下がって今度は気体が収縮するので、その圧力で今度は農作物の下部にたまった水が吸い上げられてタンクに戻される。中学校の理科の授業で習う「気体の体積は圧力に反比例し、絶対温度に比例する」というボイル=シャルルの法則を思い出すと、仕組みが理解できるだろう。

 「例えば、スプリンクラーなどの散水でトマトを栽培すると、1個作るのに約50リットルの水がかかると言われる。水を再利用できるSoBiCなら、2リットルほどで栽培できる」(中島氏)。露地栽培に比べて95%以上の水を節約可能だという。

ボイル=シャルルの法則に従って水を循環させる仕組み(提供:ネイチャーダイン))
ボイル=シャルルの法則に従って水を循環させる仕組み(提供:ネイチャーダイン))
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