特集6回目は「ウエアラブルヘルスケア」と呼ぶ新市場を紹介する。これを実現し、病気が発生する前に兆候をつかむことで予防につなげるシステムを開発しているのがミツフジ(京都府精華町)だ。同市場は5年後の25年には国内で750億円以上の急成長が見込まれる。今後、予防医療が当たり前になりそうだ。

「CEATEC2019」に出展したミツフジとJTB総合研究所の共同ブース。ウエアラブルデバイスで新しい観光旅行を提案しており、多くの来場者が関心を寄せていた
「CEATEC2019」に出展したミツフジとJTB総合研究所の共同ブース。ウエアラブルデバイスで新しい観光旅行を提案しており、多くの来場者が関心を寄せていた
ミツフジが独自開発した導電性繊維を使ったウェアなどを身につければ、生体情報から病気の発生が事前に分かる研究開発が進んでいる
ミツフジが独自開発した導電性繊維を使ったウェアなどを身につければ、生体情報から病気の発生が事前に分かる研究開発が進んでいる

 健康の重要性は、高齢者だけにとどまらない。働き方改革が叫ばれるなか、一般従業員の健康管理は企業にとって急務。健康の維持はもちろん、ストレスのない環境作りこそが、新たな経営課題だ。経済産業省も日本再興戦略に位置づけた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの1つとして東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を毎年発表するなど、健康経営はますます重要になっている。

 だが、定期的な健康診断の実施、食生活の改善アドバイス、禁煙の奨励といった対策を推進するだけで、病気の発生をどこまで予見できるのだろうか。心筋梗塞や脳梗塞など、突然死のリスクは常に残る。今後、求められる健康対策は病気の発生をできるだけ正確に予測し、病気が起こる前に対策を打てるようにすることだ。では、どうすれば病気の発生をつかむことができるのか。

 このため最近、「着る健康診断装置」として注目されているのがミツフジが開発したシステム「hamon」だ。導電性の繊維による特殊な下着を着用すると、利用者の生体情報の取得からストレスなどを可視化する。いわば「ウエアラブルヘルスケア」と呼ばれる新しい分野といえる。脈拍などの生体情報をウエアラブルデバイスからリアルタイムに常時、収集するシステムでは「Apple Watch」に代表されるリストバンド形式が一般的だろう。だが病気の発生を予測できるような生体情報を取得する場合、手首に装着して脈拍を見るだけでは、正確には検知しにくい。だがミツフジの場合は体に密着しているため、リストバンドでは難しい生体情報をつかみやすく、病気の発生を予見しやすい。

ミツフジは「ウエアラブルヘルスケア市場」で、予防医療に向けた取り組みを目指す
ミツフジは「ウエアラブルヘルスケア市場」で、予防医療に向けた取り組みを目指す
装着する小型発信機。生体情報をリアルタイムにスマートフォンに送信(ミツフジの例)
装着する小型発信機。生体情報をリアルタイムにスマートフォンに送信(ミツフジの例)

 経済産業省の「次世代ヘルスケア産業協議会」が18年に発表した資料「次世代ヘルスケア産業協議会の今後の方向性について」では、「健康経営を支えるサービス(従業員が健康的に働けるように職場環境を整えるための企業・保険者向けサービス)」として25年に7600億円の国内市場規模を予測している。このうち、どれくらいをウエアラブル周辺で獲得できるかは分からないが、仮に約10%としても760億円だ。一方で、富士キメラ総研「ウェアラブル/ヘルスケアビッグデータビジネス総調査 2017」によるとヘルスケア用のウエアラブルデバイスの国内市場規模は16年は約3億円、22年は約96億円と毎年倍々で伸びると予測。このままなら25年は約770億円になりそう。こうした数字から、25年の市場規模は750億円以上になるもようだ。18年から急成長する分野だ。

ブラジャーが心電図計の代わりになる

 ミツフジのhamonに注目し、提携しようとする企業も出てきた。19年4月25日、ワコールは働く女性の健康管理を支援するため、新しいブラジャー「iBRA(アイブラ)」を発表した。hamonと連携させて活用し、アイブラを肌に密着させると心臓の鼓動で体に生じる微弱な電気信号を検出。付属の小型発信機で外部に送信する。いわばブラジャーが心電図の代わりになるため、体調の変化を事前に把握できる。ワコールは生体情報を正しくつかめむための最適なブラジャーを設計した。

ワコールと共同開発したブラジャー「iBRA(アイブラ)」を利用すれば、着用者のストレスをつかめる
ワコールと共同開発したブラジャー「iBRA(アイブラ)」を利用すれば、着用者のストレスをつかめる

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