地上約230メートルの展望施設「SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)」を擁し、渋谷駅の真上に2019年11月1日に開業した渋谷スクランブルスクエア東棟。渋谷最高峰からの眺望が脚光を浴びているが、実は商業フロアも「常識破り」の連続で成り立っていた。知られざる舞台裏に迫った。
地下2階から地上14階まで。渋谷駅の真上に「超縦長」の商業施設が誕生した。渋谷スクランブルスクエア東棟である。店舗数は213。階数で割ると1フロア当たり13店にすぎない。
「この縦積み感は日本一だ」と評するのは、渋谷スクランブルスクエアの商業・展望Dept.総支配人、堀内謙介氏。日本一というのは、他にはないという意味だという。
商業施設は、縦にフロアを積めば積むほど、回遊性が悪くなる。だからこそ、近年の大規模再開発は、商業部分を下層の数フロアにとどめ、残りはホテルやオフィスで埋めるのがセオリーだった。渋谷スクランブルスクエアはこの常識を破り、中上層階をオフィスとしながら、商業フロアを16層も積み重ねた。
それは、渋谷ならではの宿命だった。渋谷はすり鉢状に街が広がり、宮益坂上と道玄坂上がビルの3階の高さにある。一方、渋谷駅は谷底にあり、この谷の部分に鉄道やバス路線が乗り入れているのだ。
「渋谷駅は地下2階から地上3階まで5層すべて交通結節点になる。通常は大きなファサードがあり、ここが館の入り口という場所を設けるが、渋谷スクランブルスクエアの場合は5層すべてが顔になる。だからこそ、(漫画『キン肉マン』の)アシュラマンではないが、いろいろな顔を用意した」(堀内氏)
テナントの誘致を始めたのは2017年の後半。難題として立ちはだかったのは、交通結節点であるがゆえに、この5層はプレート(売り場面積)が極端に小さくならざるを得ないことだったという。
「郊外のモール型であれば、プレートは2層ぐらいでとにかく広くするほうが回遊しやすい。しかし、都心部にはそれだけの土地がない。縦積みの成功事例を作りたいと強く意識した」(堀内氏)。導き出した答えは、1層当たりの店舗数を絞る代わり、フロアごとに異なる顔を設定することだった。
例えば、1階ではスイーツを集め、2階は渋谷のストリートカルチャーを表現した。地下1階にはスーパーマーケットを入れ、地下2階はデパ地下の進化系をテーマにした。
特筆すべきは3階である。JR線の改札口があるこの階の顔に収まったのは「ラグジュアリー」。11店と多くはないが、ヴァレンティノやサンローラン、ジバンシィ、バレンシアガ、ブルガリといった高級ブランドで固めた。「若者の街」というイメージの真逆を行く戦略である。
「ラグジュアリーブランドは、百貨店や路面店で出店するのが一般的だった。今回は駅ビル内に、しかも1階ではなく3階に目抜きで集積するという初の試み。まさに新しい渋谷の顔になる」(堀内氏)
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