渋谷特集第4回のキーワードは「共創」。再開発が進む中、企業や個人が組織の枠組みを超えて交流する「共創施設」を渋谷に設ける大手企業が相次いでいる。なぜなのか。長年渋谷を拠点とし、共創施設のプロデュースを数多く手がけているロフトワーク代表の林千晶氏に聞いた。
「渋谷はもともとボトムアップで新しいものが次々に生まれる街」――。長年渋谷を拠点とし、2017年にオープンした「100BANCH」や19年11月にオープンしたばかりの「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」といった共創施設のプロデュースを手がけているロフトワーク代表の林千晶氏は言う。
100BANCHはパナソニックとロフトワーク、カフェカンパニーの3社で運営する、“100年先を豊かにするための実験区”をコンセプトにした共創施設。JR渋谷駅新南口エリアにある築40年超の倉庫を改装し、活動の拠点やプロトタイプ展示の場として使えるスペースに加え、業界のトップランナーによるメンタリングやネットワークを提供している。
35歳未満の若いリーダーのプロジェクトを推進するアクセラレーションプログラム「GARAGE program」ではすでに150以上のプロジェクトが進んでおり、「“ふんどし”を『表現者のためのファッションウエア』として未来に伝える」「林業イノベーターのためのWEBメディア」「アメリカミズアブを使った食品リサイクルでフードロス問題を解決」「日本をかくれんぼ大国にする」など、個性的なプロジェクトが並ぶ。
「100BANCHは35歳未満の夢をどんどん実現していこうというコンセプト。今の日本をつくっているのは60代や70代の人たちだが、20~30代の若い人たちにもこうなってほしいというものがある。20、30年後にそれらがメインストリームになるかもしれない」(林氏)
例えば、「未来は不動産ならぬ“可動産”にあり」というコンセプトでスタートしたのは、バスを改装してつくられた、キャンピングカーより大きく機能性が高い“動く家”「バスハウス」。すでに3台を制作し、19年1月には宮崎県日南市と連携するなど、実用化に向けて動き出している。
また、「昆虫食への固定概念を払拭し、その魅力を伝える」ことを目的にしている篠原祐太氏は、20年春に「コオロギラーメン」やコース料理を売りにしたレストランを開業すべく、クラウドファンディングを実施。目標金額の300万円を達成した。昆虫をそのまま食料にするのではなく、だしをとったり、養殖の餌にしたりなど、新たな活用法も模索している。
渋谷に共創施設を開設した理由について、パナソニックは「事業がB2Bにシフトしていることにより、特に若い人にとってパナソニックが身近な企業ではなくなっていることが分かった。東京の中でも若者が多くいて、ITベンチャーの企業が多く、多様性もある渋谷に共創施設を作った。100年に一度といわれる大規模開発で街が大きく変わりつつあり、新しいモノやコトを生み出していくムードにあふれている。実際にさまざまな会社やクリエイターが集まっており、そのエネルギーに触発されることも多い。新しい文化の発信地となりうる渋谷での活動は非常に得るものが多い」という。
100BANCHには経営企画部のメンバーが常駐し、同社とのブリッジ役として活動。経営企画部門や技術部門などが将来像を描く際にディスカッションしたり、共同で新規市場の創出に向けたプロジェクトを行うこともあるという。
一方、東急とJR東日本、東京地下鉄(東京メトロ)が共同で設立した渋谷スクランブルスクエアが運営するSHIBUYA QWSは、19年11月1日に開業した約230m・地上47階建ての渋谷スクランブルスクエア東棟15階のワンフロアを占めている。「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」をコンセプトに、年齢や専門領域に関係なく入居者を募集している。
会員同士や企業だけでなく、東京大学、東京工業大学、慶応義塾大学、早稲田大学、東京都市大学の5大学とも連携し、化学変化を起こすことで領域横断的な価値創造を目指すという。渋谷駅直結の一等地で、フロア全体を占める約2600平米の空間をこのような施設に使うのは大きなチャレンジといえる。
「全体が見渡せない谷地形の渋谷は、さまざまなカルチャーがごちゃまぜになっている“超ダイバーシティー”な街。会社名や収入に関係なく、個人同士がつながって新しいビジネスをつくっていく土壌もある。大手企業が渋谷に共創施設をつくるのは、プロジェクト単位のビジネスが主流になるといわれるなか、それが当たり前になっている渋谷のカルチャーに魅力を感じているのでは」(林氏)
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