渋谷の「谷」がなくなる――。渋谷駅の複雑な動線は再開発で改善しているか。工事が終了して2019年11月1日に開業した渋谷スクランブルスクエア周辺を中心に、オールアバウト「住みやすい街選び」ガイドなどを務める“街のプロ”中川寛子氏が実際に歩いて検証した。

 東急東横線沿線に20年、東急田園都市線沿線に10年と長らく渋谷駅を通り続けている。この間に埼京線の渋谷駅ホーム増設(1996年)、京王井の頭線渋谷駅の移転(97年)、東急田園都市線の東武伊勢崎線との相互直通運転(2003年)、東急東横線渋谷駅の地下化(13年)と駅と直接関わるだけでも様々な変化があり、渋谷駅はいつの間にかダンジョン(迷宮)と呼ばれるようになってきた。

 現在行われている再開発はその迷宮化した渋谷駅周辺を整理するだけではなく、谷地形のハンディを垂直方向に高層ビルでカバー、周囲とのアクセスを作ることで水平方向に圏域を広げ、水平垂直に渋谷を拡大することを目標にしている。実際のところ、そのもくろみは成功しているのだろうか。

番号は各写真のおおよその位置を示している
番号は各写真のおおよその位置を示している

 実際に歩いてみた印象は「まだら模様」である。都市での移動には水平、垂直の2方向があるが、谷地形の渋谷で肝になるのは垂直方向。地下5階の東急東横線から地上3階の地下鉄銀座線までの、高さの異なる複数駅間をどうつなぐかである。

 その答えとして、渋谷では「アーバンコア」と名付けた垂直方向の移動空間が作られている。単純にエレベーターで上下に移動させるのではなく、駅、商業施設と地上を複層的につなぎ、回遊性を持たせるような場と考えればよいと思うが、これが最終的には9カ所設置される計画だ。

 すでにあるものとして分かりやすいのが、渋谷ヒカリエの入り口近くにある地下3階から地上4階をつなぐエスカレーターホール。同様のものが渋谷ストリーム前、渋谷スクランブルスクエアにも作られている。

 ただ、ヒカリエのそれが縦方向にある程度全体像が見えて行き先が明確なのに対し、スクランブルスクエアでは人の流れを横切って回り込む必要があるなど、自分の行き先が見えにくい。特に開業直後の現在は人が多いこともあって「回遊させられている」感があり、急いでいるときにはいらっとする。1、2階のJR駅との接続部分が工事中でスムーズにつながっていないこともあり、便利になったとは感じにくいのが本当のところだ。

 ただ、もう一つの渋谷ストリーム前の、地下3階と地上、2階をつなぐアーバンコアは商業施設を介していないこともあって分かりやすく、確かに便利になったと思える。考え方は良しとしてもどんな作り方をするかでアーバンコアの使い勝手は分かれるのではなかろうか。

(1)渋谷ヒカリエのアーバンコア。全体像が見えており、自分が向かっている方向が明確。階数が分かりにくいという声も聞いたが、その点は慣れの問題か
(1)渋谷ヒカリエのアーバンコア。全体像が見えており、自分が向かっている方向が明確。階数が分かりにくいという声も聞いたが、その点は慣れの問題か
(2)渋谷ストリーム前のアーバンコア。シンプルな垂直方向の移動が中心で分かりやすい。光の箱のようなデザインが象徴的
(2)渋谷ストリーム前のアーバンコア。シンプルな垂直方向の移動が中心で分かりやすい。光の箱のようなデザインが象徴的
(3)渋谷スクランブルスクエアのアーバンコア。階によってはエレベーターに乗るために人の列を横切る水平方向の移動を強いられることもあり、向かっている方角が一瞬分からなくなる
(3)渋谷スクランブルスクエアのアーバンコア。階によってはエレベーターに乗るために人の列を横切る水平方向の移動を強いられることもあり、向かっている方角が一瞬分からなくなる

 ところで、この「行き先が見えているか、いないか」と街の分かりやすさに関係があるように思える。今回歩いてみてそれを感じたのは、スクランブルスクエア、渋谷ストリーム、渋谷警察署、ヒカリエ前をつなぎ、国道246号、明治通りをまたいだ歩行者デッキである。当然、行き先は見えており、通りを渡ることなく、階段を上ることなく、平らなデッキを通じてスムーズにアクセスできるようになっており、非常に便利。

 さらに今後、これが南口側の渋谷フクラス、さらにはこれから開発が行われる桜丘エリアと結ばれることになれば、鉄道、道路で分断されていた渋谷が空中でつながる。将来的にはヒカリエから京王井の頭線渋谷駅のある渋谷マークシティまでを銀座線上を利用した歩行者デッキでつなぐ予定もあり、となれば空中を歩く限り、渋谷の分かりにくさは解消されることになる。ついでにフクラスとマークシティもつなげられれば、歩行者デッキを歩いている限り、渋谷は分かりやすい街になるはずだ。

(4)スクランブルスクエア、ストリーム、渋谷警察署、ヒカリエ前をつなぐ歩行者デッキ。このうち、渋谷警察署の裏手はこれまであまり建物などが更新されてこなかったエリア。利便性が向上したことでこれからは変わりそうだ
(4)スクランブルスクエア、ストリーム、渋谷警察署、ヒカリエ前をつなぐ歩行者デッキ。このうち、渋谷警察署の裏手はこれまであまり建物などが更新されてこなかったエリア。利便性が向上したことでこれからは変わりそうだ

 水平方向の移動には歩行者デッキのほか、地上、地下もあるが、そちらはどうなっただろうか。まず、地上についてはJRの工事が終わらないことには評価のしようがない。東急東横線渋谷駅との間に東口地下広場が作られ、「お、これでJRが利用しやすくなったか」と喜んだものの、分かりやすくなったのは地上に出るところまで。工事中の駅を迂回、高架下を通ってハチ公口まで行く面倒さは変わっていない。早く工事を終わらせていただきたいものだ。

(5)工事が続くJR駅。銀座線も含め、駅機能の再編自体は2020年には完成するはずだが、駅ビルなども含めると2027年まで工事は続く
(5)工事が続くJR駅。銀座線も含め、駅機能の再編自体は2020年には完成するはずだが、駅ビルなども含めると2027年まで工事は続く

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