シンガポールでMaaSアプリ「Zipster(ジップスター)」を展開するモビリティX。同社のコリン・リムCEOとMaaS Tech Japanの日高洋祐社長のインタビュー後編。最寄り駅からの距離別サブスクプランや環境に優しい行動を促す仕掛けなど、モビリティXの驚きの構想が明らかになった。
(インタビュー前編「小田急とMaaS連携 シンガポール発モビリティXの実力は?」はこちら)
自家用車ユーザー向けのサブスクプラン「ドライブプラス(仮称)」は非常に面白い発想ですね。他にもサブスクプランを導入する予定はありますか?
MaaSにおけるサブスクモデルは、公共交通の乗り放題に加えてタクシーも1回5キロメートルまで使い放題といったプランが欧州で提案されています。しかし、これは私見ですが、これだけではユーザーの移動ニーズを満たすことはできないでしょう。
というのも、例えば鉄道駅から近いところに住んでいる人か、それとも遠いところに住んでいる人か、こんな簡単な違いでも求める移動スタイルが異なることは想像できるはずです。そして、それに応じたサブスクプランが必要になることも。鉄道駅の近くに住んでいるなら公共交通をベースにしたプランが適していますし、駅から遠い人はグラブやゴジェックのような配車サービス、タクシーをもっと利用しやすくなるプランを組むのが妥当だと考えています。
そこで現在、複数のオフィスビルが集積するビジネスパークを運営する大手不動産会社と話が進んでおり、2020年には入居企業の社員向けに4つのサブスクプランのテスト展開を始めます。構想中のプランの1つが、先ほど紹介した自家用車ユーザー向けの「ドライブプラス(仮称)」なのですが、この他に主力プランが3つあります。
1つ目が、お試しプランの「エコ(仮称)」です。月額40~50SGD(約3200~4000円)で、例えば鉄道やバスに30SGD分乗ることができ、残りの10SGD分をタクシーや配車サービスに使うことができる。それに加えて自転車シェアリングなどが利用可能で、個別にチケットを買うよりも割安な料金になります。2つ目は公共交通をメインに使う人向けで、より頻繁に移動できる「アクティブ(仮称)」プラン。月額80~100SGD(約6400~8000円)で公共交通は無制限に乗ることができ、タクシーや配車サービスは20SGD(約1600円)分使えるというものです。
そして、3つ目のプランは名称未定ですが、鉄道の駅から遠いところに住んでいる人向けのもの。これはグラブなどと連携して、月額料金の中で配車サービスやタクシーの比重を大きくするプランになります。
なるほど。MaaSアプリを提供するオペレーターとしては、ルート検索・予約機能だけだと「グーグルマップ」に勝てませんから、地域ニーズに合わせたサブスクプランで違いを出すということですね。
やはりMaaSアプリは、単に旅行計画ができるだけでは不十分ということです。旅行計画に加えてモビリティの予約ができ、そしてさらに支払いまでできる。この3機能が統合されて初めて、大きな価値が生まれます。現在、MaaS領域では世界でも多数の会社が存在しますが、すでに消費者のほとんどがグーグルマップを使っているのが現実でしょう。でも、彼らは旅行計画の機能は充実しているものの、モビリティの予約や支払いについてはまだ十分な対応ができていません。
また、MaaSをめぐっては世界中で1つのビジネスモデルが存在することはあり得ません。それぞれの都市で異なる構造があり、これらの違いをどう見つけ、どのようにビジネスモデルを組み立てていくのか。その1つのチャレンジが、先ほどお話しした大手不動産会社と取り組むサブスクプランです。
ルート検索機能でいえば、19年4月にグラブが「トリッププランナー」機能を実装しましたね。その意味で、グラブとは競合関係なのでしょうか。
それは、今日の自動車産業と同じですね。パートナー企業と組みながらも、また一方では競合であり続けるという関係です。もう1つ、スマートフォン業界でよく言われることですが、米アップルのようにすべてのサービスを自社のプラットフォームで保有するのか、それともグーグルのAndroidのようにサードパーティーに門戸を開くのかという戦略の違いがあります。グラブの有意点としては、アップルのように様々なサービスを統合しやすいことがありますが、そのシステムに入っていない企業は参加できないということでもあります。
その点、我々はユーザーの利益を第一に考えているので、あらゆる企業と連携することを前提にしています。また、モビリティXはSMRTが主要株主ですが、他のモーダルに比べてSMRTが運営するモビリティを優先するようなことも決してありません。
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