10月にシンガポールで開催された「ITS世界会議2019」や、「東京モーターショー2019」から見えてきたMaaS&スマートシティの最新トレンドをリポートする特集の第1回。東南アジアを代表する配車サービス「GOJEK(ゴジェック)」のキーパーソンを独占取材した。料理宅配から買い物代行、ビデオ配信サービスまで、あらゆる生活サービスを1つのアプリに統合する多角化戦略の秘密とは?

インドネシアでゴジェックが展開しているバイクの配車サービス(写真/Shutterstock)
インドネシアでゴジェックが展開しているバイクの配車サービス(写真/Shutterstock)

 企業価値が100億ドル(約1兆800億円)を超える巨大未上場企業を「デカコーン」と呼ぶ。世界に20社ほどしかないといわれる中、東南アジアのデカコーンとして覇を競うのが、シンガポールに本社を構えるGrab(グラブ)と、インドネシア発のGOJEK(ゴジェック)だ。両社は、バイクや自家用車などによる配車サービスを軸として料理宅配やキャッシュレス決済など、生活に密着したいくつものサービスを統合した「スーパーアプリ」を展開し、東南アジアの人々の暮らしに欠かせない存在となっている。また、グラブにはソフトバンクグループやトヨタ自動車が、ゴジェックには三菱商事や三菱自動車工業が出資しており、急成長する東南アジア市場をにらんだ日本企業からの注目も集まる。

 そんな両社が目下、熱い戦い繰り広げているのは、ITS世界会議2019が開催されたシンガポールだ。グラブの本丸であるこの地に、18年12月、ゴジェックが参入した。ゴジェックというと、バイクによる配車サービスのイメージが強いが、シンガポールでは自家用車などを使ったクルマの配車サービスを展開している。ゴジェックの複数のドライバーに話を聞くと、「グラブより運賃が安い」「グラブよりドライバーインセンティブが多い」といった声が聞かれ、グラブから移籍したという人もいた。料金の値下げやドライバーの獲得競争が水面下で激しさを増していることが分かる。

 すでにグラブはシンガポールで料理宅配の「GrabFood」や独自の決済サービス「GrabPay」など、フルラインアップでサービスを展開しているが、今のところゴジェックは配車サービスのみ。その配車サービスも、グラブなら高級車や新車を指定できたり、より割安料金で移動できる小型バンの乗り合いサービスなども選択できたりする。19年4月には、鉄道やバスなどの公共交通と配車サービスを組み合わせた経路検索ができる「トリッププランナー」機能も実装している。

グラブのラッピングカー
グラブのラッピングカー
シンガポールで人気の屋台街(ホーカーズ)に料理を受け取りに来たグラブのドライバー
シンガポールで人気の屋台街(ホーカーズ)に料理を受け取りに来たグラブのドライバー

 こうした中で、ゴジェックはシンガポール市場をどう攻略するのか。そして、主にインドネシアで展開するスーパーアプリとしての多角化戦略はなぜ生まれ、成功したのか。あらゆる交通手段をシームレスに統合し、都市やユーザーに新たな価値を生み出す「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の潮流に対して、どう向き合うつもりなのか。ゴジェック シンガポールのゼネラルマネジャーである、LIEN CHOONG LUEN氏に話を聞いた。

ゴジェック シンガポールのゼネラルマネジャー、LIEN CHOONG LUEN氏
ゴジェック シンガポールのゼネラルマネジャー、LIEN CHOONG LUEN氏

「スーパーアプリ」の真価とは?

まず、東南アジアでゴジェックが成功しているのはなぜか。その要因を教えてください。

ゴジェックの歴史を振り返ると、会社自体は2010年10月に創業しましたが、当初はバイクタクシーの配車サービスをコールセンターで行っていて、現在のようにスマートフォンアプリに発展したのは15年のことでした。その当時、世界ではすでに米ウーバー・テクノロジーズなどが自家用車を使うドライバーと乗客をマッチングさせる配車サービス(ライドヘイリング)のビジネスをアプリで行っていましたから、後発組ではあります。

 しかし、我々は本国のインドネシアでローンチするや、徹底的にローカルの顧客ニーズに合わせてサービスを展開してきました。これが1つ目の成功のポイント。バイクの配車サービス「GoRide」、クルマを使った配車サービス「GoCar」に加え、バイクの宅配サービス「GoSend」、飲食店などの料理を届ける「GoFood」、買い物代行サービスの「GoMart」、決済サービスの「GoPay」など、今では20種類を超えるサービスを1つのアプリを介して展開しています。中には、リラクゼーションサービスを自宅に呼べる「GoMassage」、洗濯代行の「GoLaundry」、ビデオオンデマンドサービスの「GoPlay」まで、ラインアップに加わっています。これらはすべて地元の顧客が求めていたもので、自社だけではなく適宜パートナー企業とエコシステムを組み、ゴジェックは「スーパーアプリ」として発展してきました。

インドネシアでのゴジェックのアプリ画面。多彩なサービスのアイコンがトップ画面に並ぶ(写真/Shutterstock)
インドネシアでのゴジェックのアプリ画面。多彩なサービスのアイコンがトップ画面に並ぶ(写真/Shutterstock)

 もう1つのポイントは、ビジネスモデルの組み方。これまで展開してきたサービスは闇雲に選んできたわけではありません。例えばバイクのドライバーは朝会社に出勤する人を乗せて、ランチの時間帯には料理を宅配、夕方はその人を自宅に送り、その後は荷物やマッサージ師を届ける仕事があるかもしれません。ドライバーにとってはゴジェックのプラットフォームを通して、あらゆる時間帯で何らかの仕事がマッチングされる状態なのです。それぞれのピーク時間は分散していますから、需要が高いサービスに常に必要とされているということです。

 一方、ユーザーにとっては、すべてのことがゴジェックのアプリ1つでできる。移動がラクになるのはもちろんのこと、自宅から出たくなければ料理も注文できるし、買い物もできます。映画館に行く時間がなければ、ビデオオンデマンドもある。東南アジアではいまだに多くの人が、信用力がないために銀行口座を開けない状態ですが、ゴジェックならGoPayで支払うことが可能で、保険サービスも受けられる。こうしてユーザーのトラフィックを多く取り込み、仕事が潤沢に生まれているからこそドライバーも多く獲得できる。このループを最大化しているということです。

 3つ目のポイントは国際化。東南アジアでの展開に専念しており、18年9月にはベトナムでバイクのライドヘイリング「GoViet」を始め、18年12月にシンガポール、19年2月にはタイに進出しました。19年1月にはフィリピンの仮想通貨・決済プラットフォーム大手のCoins.phを買収しており、今後フィリピンやマレーシアにもサービスを拡大する計画があります。

つい先日、ゴジェック共同創業者であるナディム・マカリム氏が突如退任し、インドネシアの第2次ジョコ政権に教育文化大臣として参画しました。

非常に異例なことで驚いていますが、彼は米ハーバード大学卒業で、ゴジェックにはCSO(チーフ・セキュリティー・オフィサー)としてNASA出身者がいたり、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)もシリコンバレーで経験を積んだ者だったり、国際的かつ優秀な人材が集まってきています。こうした世界基準の視点を持ちながらローカルにフィットし、海外進出や企業買収を進めてきたことが、今日のゴジェック成功の背景にあります。

後編「ゴジェックもMaaSに参入? 「スーパーアプリ」の舞台裏」に続く