「スーパーアプリ」の真価とは?

まず、東南アジアでゴジェックが成功しているのはなぜか。その要因を教えてください。

ゴジェックの歴史を振り返ると、会社自体は2010年10月に創業しましたが、当初はバイクタクシーの配車サービスをコールセンターで行っていて、現在のようにスマートフォンアプリに発展したのは15年のことでした。その当時、世界ではすでに米ウーバー・テクノロジーズなどが自家用車を使うドライバーと乗客をマッチングさせる配車サービス(ライドヘイリング)のビジネスをアプリで行っていましたから、後発組ではあります。

 しかし、我々は本国のインドネシアでローンチするや、徹底的にローカルの顧客ニーズに合わせてサービスを展開してきました。これが1つ目の成功のポイント。バイクの配車サービス「GoRide」、クルマを使った配車サービス「GoCar」に加え、バイクの宅配サービス「GoSend」、飲食店などの料理を届ける「GoFood」、買い物代行サービスの「GoMart」、決済サービスの「GoPay」など、今では20種類を超えるサービスを1つのアプリを介して展開しています。中には、リラクゼーションサービスを自宅に呼べる「GoMassage」、洗濯代行の「GoLaundry」、ビデオオンデマンドサービスの「GoPlay」まで、ラインアップに加わっています。これらはすべて地元の顧客が求めていたもので、自社だけではなく適宜パートナー企業とエコシステムを組み、ゴジェックは「スーパーアプリ」として発展してきました。

インドネシアでのゴジェックのアプリ画面。多彩なサービスのアイコンがトップ画面に並ぶ(写真/Shutterstock)
インドネシアでのゴジェックのアプリ画面。多彩なサービスのアイコンがトップ画面に並ぶ(写真/Shutterstock)

 もう1つのポイントは、ビジネスモデルの組み方。これまで展開してきたサービスは闇雲に選んできたわけではありません。例えばバイクのドライバーは朝会社に出勤する人を乗せて、ランチの時間帯には料理を宅配、夕方はその人を自宅に送り、その後は荷物やマッサージ師を届ける仕事があるかもしれません。ドライバーにとってはゴジェックのプラットフォームを通して、あらゆる時間帯で何らかの仕事がマッチングされる状態なのです。それぞれのピーク時間は分散していますから、需要が高いサービスに常に必要とされているということです。

 一方、ユーザーにとっては、すべてのことがゴジェックのアプリ1つでできる。移動がラクになるのはもちろんのこと、自宅から出たくなければ料理も注文できるし、買い物もできます。映画館に行く時間がなければ、ビデオオンデマンドもある。東南アジアではいまだに多くの人が、信用力がないために銀行口座を開けない状態ですが、ゴジェックならGoPayで支払うことが可能で、保険サービスも受けられる。こうしてユーザーのトラフィックを多く取り込み、仕事が潤沢に生まれているからこそドライバーも多く獲得できる。このループを最大化しているということです。

 3つ目のポイントは国際化。東南アジアでの展開に専念しており、18年9月にはベトナムでバイクのライドヘイリング「GoViet」を始め、18年12月にシンガポール、19年2月にはタイに進出しました。19年1月にはフィリピンの仮想通貨・決済プラットフォーム大手のCoins.phを買収しており、今後フィリピンやマレーシアにもサービスを拡大する計画があります。

つい先日、ゴジェック共同創業者であるナディム・マカリム氏が突如退任し、インドネシアの第2次ジョコ政権に教育文化大臣として参画しました。

非常に異例なことで驚いていますが、彼は米ハーバード大学卒業で、ゴジェックにはCSO(チーフ・セキュリティー・オフィサー)としてNASA出身者がいたり、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)もシリコンバレーで経験を積んだ者だったり、国際的かつ優秀な人材が集まってきています。こうした世界基準の視点を持ちながらローカルにフィットし、海外進出や企業買収を進めてきたことが、今日のゴジェック成功の背景にあります。

後編「ゴジェックもMaaSに参入? 「スーパーアプリ」の舞台裏」に続く