企業間のデータ連携が遅々として進まない。自社にたまるデータの山、きっとそれは宝の山。ただ個人データの扱いに慎重になるあまり、他社データとの連携に躊躇(ちゅうちょ)する。個人情報を司る政府関係者は言った。「慶応大学医学部の宮田裕章教授に会ってみたら」。個人データの扱いに最もセンシティブな医療分野からの視界に活路が見えた。
失礼を承知で、「慶応大学医学部の教授」でデータ駆動型社会を語る、という方としてイメージするビジュアルとはややかけ離れた印象も受けます。
もちろん服装において、場をリスペクトすること、受け止める相手をリスペクトすることは大切です。営業にあたる立場の方々が、丁寧な解釈でドレスコードに身を包むことは否定しません。一方でシリコンバレーがTシャツ文化を進めるのは、単に楽だからというだけではありません。スーツというドレスコードが所得や社会階層を区分し、着ている人へ暗黙のプレッシャーとなり、イノベーションを阻害するという理由もあります。また、データ駆動で価値創造型の新しい社会を目指す、というのが私の研究活動の1つの軸です。社会のイノベーションに貢献するアカデミアの立場、「多様化、多元化した社会の中で、新しい価値を共創しましょう」という表現者としての立ち位置を考えたときに、スーツでもなく、シリコンバレー的な軽装ではない、こうした服装でお話を伝えることも時に必要だと考えています。
あ、なるほど。失礼しました。では本題に入りますが、日本では一般に、社会におけるデータ流通がまだ進んでおらず、個人情報の扱い方を含めてデータ活用のダイナミズムが感じられません。いま、我々はどんな時代にいるのでしょう。
大きな時代の転換点に立っているということを認識すべきだと思いますね。かつて、“所有する”ものづくりで社会を変えていくと言われた時代から、データで“共有する”価値をつくり社会を変えていくという、時代になってきたということです。
米国、EU、中国の個人データ取り扱いの世界観
データで社会を変えていく際、1つの課題が個人データの扱い方です。とりわけ病歴や健康診断結果は、個人情報保護法が定める「要配慮個人情報」に該当するため、より慎重な扱いがヘルスケア分野には求められます。それだけに同分野から見える個人データの活用法は、広く産業全般に対する視座を与えてくれる気がします。
まったくその通りです。ヘルスケア分野を起点、入り口にして、データ駆動型社会へ向かうことができると私は考えています。まず、データ流通に対する世界の動きを俯瞰(ふかん)してみましょう。
米国はご存じの通り、GAFAという言葉に象徴されるように、企業を主軸としたデータ支配が進んでいます。便利な検索や快適な物品購入、人々とのつながり、こうした体験の中で得られたデータが、広告や消費の創出などの価値に変換されています。ただそのデータは利用者の手から離れ、時に個人のデータ提供に対する利害が議論される前に、企業としての利益追求が行われています。
それに対抗する動きが欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)です。個人のプライバシー保護、情報コントロールに重点を置いたものです。それまでは企業や政府が所有していたデータを、個人を軸に流通させようということです。個人の「データへのアクセス権」というような概念は、21世紀の基本的な人権となっていくものであり、大きな変化に向けた重要な提案です。
個人を尊重することはもちろん重要です。ただ個人による情報コントロールの側面が強すぎると、本来あるべきデータの価値創出ができないジレンマに陥ります。例えば医療の世界では、多くの患者さんのデータにより、一人の患者さんに良い医療を提供することができます。一人の患者さんのデータの貢献が他の多くの人々の健康を支えていくことにもつながります。この点において、データは共有財、公共財であるともいえます。
ラグビーで言う「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」といった考えでしょうかね。詳しくは、また後ほどおうかがいします。
それから中国の動きです。データ流通は、金融とITを融合したフィンテックととてもなじみがいい。それを実践に移しているのが中国です。
中国に個人のプライバシーという概念があるかは別として、個人データから形成される信用スコアと金融が融合して新たなサービスを生み出しています。信用スコアは減点法だけでなく加点法を組み入れたことで、社会への貢献を可視化しました。これによって、治安向上に資する動きにつながっている点は興味深い。
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