eスポーツがメディアで取り上げられる機会が増えてきたが、話題になるのは大都市圏で開催される大型イベントが中心。一方、地方では地域色を生かした小・中規模のイベントの開催が活発化している。地方自治体や地元企業からは、地方創生の一助としての期待も懸けられている。
地方で開催されるeスポーツイベントの特徴は、地元のゲーム好きが集まるコミュニティーをベースにしていること。大都市圏でのイベントの多くがゲームメーカーをはじめとする企業主導なのに対し、地方のイベントは個人あるいは数人の仲間たちが主体になっていることが多い。規模も大きいもので数百人だ。 だが、こうした地方イベントが今、少子高齢化や住民の県外流出、地域産業の活性化という課題を抱えた自治体や地元企業からの期待を集め始めている。
自治体も期待する若者への訴求力
地方自治体や地元企業が注目するのは、eスポーツイベントの集客力、特に若い世代を対象とした訴求力だ。地方開催のeスポーツイベントでも集まるのは10代、20代、30代の若者たち。イベントの内容によっては他県から遠征してくる人もいる。地域の活性化という意味でいえば、規模は小さくともその効果は高い。
地方のeスポーツのイベントで、現在、最も成功しているといわれているのが富山県の「ToyamaGamersDay」(TGD)だ。2016年1月にゲーム好きの仲間たち数人で始めたゲーム大会が発展し、同年12月に初めてのTGDを開催。3年目の18年12月には参加者が約720人に達した。19年10月のTGDでは、主催に富山県や富山テレビが、後援に同県の高岡市や魚津市、両市の商工会議所や観光協会が、協賛に地元を中心に26の企業・ブランドが参画。地元のゲームコミュニティーと自治体、地元企業が協力して作り上げるイベントになっている。
TGDを主催する富山eスポーツ連合の堺谷陽平会長は「若い人向けのエンターテインメントが少ない地方の自治体や企業にとって、若い人を引き付けられるだけでも価値があると言われる」と話す。
また、大分県別府市では、大分eスポーツ連合が19年3月に「BEPPU ONSEN LAN(別府温泉LAN)」を開催した。ゲーム大会や地元eスポーツチームとの交流会のほか、「おんせん県」という大分県のキャッチコピーにちなんで、足湯や浴衣のレンタルサービスなども用意。高校生以上は有料にもかかわらず、主催者の予想を超える約130人を集めた。
このイベントには別府市などが協賛している。大分eスポーツ連合の西村滉兼会長は「大好きなゲームで地元の振興に一役買えたら。自治体や地元企業と協力して取り組んでいきたい」と考えている。
茨城国体を機に広がる地方への波
ただ、こうした成功例はまだ少ないのも現状だ。日本eスポーツ連合(JeSU)が地方支部を募集・設置して活動を促しているものの、先の富山県、大分県のようにアイデアと情熱、行動力を備えたリーダーがいないとイベントの実現すら難しい。
だが、その状況を打破する契機となり得る出来事もある。19年10月に第74回国民体育大会(茨城国体)の文化プログラムとして開催された「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」だ。同選手権では、レーシングゲーム『グランツーリスモSPORT』、サッカーゲーム『eFootball ウイニングイレブン 2020』、パズルゲーム『ぷよぷよeスポーツ』の3タイトルを競技種目として採用。各県の代表が茨城県のつくば国際会議場に集まり、優勝を争った。
同選手権は都道府県対抗だったため、開催前には各地域で代表を選考するeスポーツ大会が行われた。JeSUの地方支部などがある場合はそれらが主体になったが、ない場合は商工会議所の青年部などが手探りで大会を運営した。それらの団体の中に、eスポーツへの取り組みに関心を示しているところがあると聞く。全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKIが、全国各地でeスポーツ大会の実績を作り、地方でのeスポーツムーブメントを喚起した形だ。
今後は、eスポーツへの取り組みを強化する団体や地方自治体、地元企業なども増えるだろう。地方でのイベント開催にはゲームメーカーも注目しており、Cygamesなど主催者をサポートするメニューを用意している企業もある。大都市圏の大型イベントと並び、地方発のeスポーツイベントが日本でのeスポーツの定着、発展における両輪となることに期待したい。
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