愛知県蒲郡市の「竹島水族館」は、ペンギンもイルカもいない小さな水族館。かつては、「古い」「狭い」「ショボい」で、来場者は右肩下がり。赤字だけが増え続け、廃館寸前だった水族館が、今や県内有数の人気スポットに変貌した。復活の原動力となったのは若手館長の大改革だった。
竹島水族館は、1962年に建てられた水族館で、古びた印象は否めない。水槽を見て回るだけなら10分程しかかからないような小さな水族館だ。当然、大型の水槽が必要なペンギンやイルカなどの人気動物を飼う場所も予算もなく、唯一、アシカショーがメインのコンテンツだった。
現在の館長である小林龍二氏が飼育員として竹島水族館に入ったのは2004年。「館内はいつもガラガラで、寝そべっていても平気なくらい。そして、水族館だから夏は涼しく冬は暖かい。平日は仕事をサボって昼寝をしている外回りのサラリーマンばかり、なんてこともあった」と小林氏は当時の様子を振り返る。
そんな状況だから、メインのアシカショーの時間になっても、見にくる人が1人もいない。「昼寝をしている人を起こして、頼み込んで来てもらうこともあった。しかし、特に見たいわけでもないのに観客は自分1人しかいないので、途中で帰るに帰れない。ショーをする自分も、たった1人を相手にするのはつらい。見るほうもやるほうもつらいという状況だった」(小林氏)。
気が重い毎日を過ごすうちに、「もっとお客さんに来てもらえる努力をしなければ」という強い危機感を持つようになった。ところが、新入りの意見など全く聞いてもらえない。「そんなことを考える暇があったら、もっと魚の飼い方を覚えろ」と言われるばかりだった。
「自分もかつてはそうだったんですが、飼育員は生き物が大好きで、できれば1日中生き物と接していたい。本当は人間の相手なんかしたくないんです。生き物をうまく育てて増やすのが自分の仕事で、それで給料をもらっているという意識が強い。お客さんを楽しませるという視点がまるでなかった」(小林氏)
周囲の人間は、閑散としたアシカショーを見ても、「小林のやつ、たった1人のお客さんを相手に熱演してるよ」と面白がるばかりで、全く危機感など感じる様子はなかったという。
巨額な税金投入に批判、運営の危機に
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー