2019年8月、英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)が大分県別府市に温泉付きのラグジュアリーホテルをオープン。特集の5回目は、地方都市や温泉地を虎視眈々(たんたん)と狙う外資系ホテルの動きを追う。オープン早々、盛況な理由は、温泉街に訪日外国人客を呼び込むだけでなく、地元客の“ハレの日需要”も取り込む戦略にあった。

大浴場も備える外資系リゾートホテルがオープン(写真提供/ANAインターコンチネンタル別府リゾート)
大浴場も備える外資系リゾートホテルがオープン(写真提供/ANAインターコンチネンタル別府リゾート)

 JR別府駅からクルマで約15分。あちらこちらから湯けむりが立ち上る温泉街を抜け、別府湾を一望できる高台に上ると、モダンな建物が目の前に現れた。19年8月に開業した「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」だ。全日本空輸(ANA)と業務提携している英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)が運営し、九州では初となる外資系ラグジュアリーリゾートをうたう。

 客室は最小でも62平方メートル、最大は212平方メートルもあり、客室数は89室。部屋の造りは完全に西洋風ながらも、クローゼットには浴衣とげたが用意され、館内では浴衣へ着替えて露天風呂付きの大浴場へ向かう宿泊客の姿が見られる。外資系では珍しい“温泉宿”なのだ。

木や竹などを用い、和のテイストが盛り込まれた客室
木や竹などを用い、和のテイストが盛り込まれた客室
部屋にも広い浴室を備える
部屋にも広い浴室を備える
浴衣やげたが用意されている
浴衣やげたが用意されている

 IHGは20年2月に箱根(神奈川県)に「ホテルインディゴ 箱根強羅」を、21年度下期には犬山(愛知県)に「ホテルインディゴ 犬山 有楽苑」をオープン予定で、いずれも温泉付き。ホテルインディゴは日本初導入のブランドで、ラグジュアリーホテルであるインターコンチネンタルブランドよりはカジュアルな位置づけ。IHG・ANA・ホテルズグループジャパンCEOのハンス・ハイリガーズ氏は、ブランドコンセプトについて「その地域の文化、特徴から抽出されたエッセンスをホテルのデザインやアートワーク、レストランのメニューなどに反映し、そこにしかない体験を楽める」と説明する。また、米マリオット・インターナショナルも20年に最高級ブランド「ザ・リッツカールトン」を栃木県日光市に開業させる。これまで日本ならではの旅館が多かった温泉地に、外資系ホテルが続々と進出し始めているのだ。

IHGは20年に箱根に全室温泉付きの「ホテルインディゴ 箱根強羅」をオープン予定(画像提供/IHG・ANA・ホテルズグループジャパン)
IHGは20年に箱根に全室温泉付きの「ホテルインディゴ 箱根強羅」をオープン予定(画像提供/IHG・ANA・ホテルズグループジャパン)

 世界的な総合不動産サービス会社・ジョーンズ ラング ラサール日本法人で執行役員ホテルズ&ホスピタリティ事業部長を務める沢柳知彦氏は、「温泉は日本ならではの“商品”。箱根のように大都市から約1時間で天然の温泉を楽しめる場所は、世界中を探してもそうそうない」と、その価値を語る。

 「ただし、訪日客にとっては、興味はあっても、言語や文化の壁があった」と沢柳氏は指摘する。伝統的な旅館に宿泊する場合、英語ですら通じないことが多いうえ、キャッシュレス決済に対応していないところもある。1泊2食付きが一般的だが、1泊だけの客が多いこともあり、長期滞在の訪日客だと食事のメニューが代わり映えせず飽きるという問題も存在している。そして訪日客が最も頭を悩ませるのが、入浴のルールだという。欧米ではタトゥーが一般的だが、日本では入れ墨が入った人の入浴を禁止している温泉施設が多い。タトゥーがあっても入浴可能な施設を公表した大分県別府市や、タトゥーを隠すシールを用意している星野リゾートは、まだまだ少数派だ。「館内のどこまで浴衣を着用していいのか、げたやスリッパはどこで履き替えるのか、といった点も訪日客にとっては未知の世界。インバウンド需要を取り込むには解決すべき課題が多い」と沢柳氏は話す。