これから4年で日本に34もの施設を開業する予定の米マリオット・インターナショナル。7つのブランドを新たに日本に上陸させ、都市部だけでなく地方のロードサイドにまで手を広げる。特集の2回目は世界最大のホテルチェーンの日本戦略を取り上げる。最大の強みは、全世界で1億3300万人の会員を有するポイントプログラムを使った集客だ。
ホテルの開業が相次ぐ銀座(関連記事:「知られざるホテルが銀座で大増殖 インバウンド比率9割超も」)。その中でもひときわ存在感を放つのが、米マリオット・インターナショナルだ。2020年春に「アロフト東京銀座」、20年夏には「ACホテル・バイ・マリオット東京銀座」をオープン予定。さらに21年には「東京エディション銀座」の開業も予定されている
マリオットの勢いは銀座にとどまらない。日本各地で34施設の開業プロジェクトが進んでおり、現在の44施設からほぼ倍増する勢い。しかも日本初進出のブランドが7ブランドもある。なぜマリオットがここまで急激に運営件数とブランド数を拡大しているのか。
マリオットは日本市場の有望性について、訪日外国人旅行客の増加を挙げる。新たなブランドを続々と進出させるのは、「日本国内への旅行者が増えるということは、旅行者のタイプも様々になってくる。多くのブランドを展開することで、より多様な滞在スタイルを提供できる」(マリオット)からだという。それに加えてマリオットの新規開業案件を一つひとつ調べると、あることに気づく。東京、大阪では近接地に異なるブランドのホテルを複数オープンさせる予定であること、そしてそれぞれにパートナーとなる日本企業がついていることだ。
マリオットなど外資系ホテルの多くは、自社で建物を建てたり、賃貸したりするわけではない。建物のオーナーと運営受託契約を結び、ホテル運営のみを担うのだ。これを「ホテルマネジメント契約」といい、欧米ではホテルの所有と運営が分離しているのが一般的。オーナーが設備投資コストから経営リスクまで負い、外資系ホテルは受託料として売り上げや利益から数パーセントを得る。
ホテルマネジメント契約は日本でも広まってきている。都心部に出店する多くの外資系ホテルは一棟建てでなく、オフィスビルの高層階に入居。これは「政府や自治体の政策により、オフィスビルにホテルを併設すると容積率の割り増しが受けられる。割増分をホテルに回せば、建物オーナーにとっては土地代の負担なくホテルが開業でき、投資効率がいい」(世界的な不動産サービス会社・ジョーンズ ラング ラサールで執行役員ホテルズ&ホスピタリティ事業部長を務める沢柳知彦氏)ためだ。オーナーの多くはホテルの運営ノウハウを持っていないため、ホテルチェーンに運営を任せる。
その中でもオーナーから人気が高いのがマリオットだ。世界最大のホテルチェーンで、訪日外国人客の集客にたけている。加えてラグジュアリーホテルを多く運営しているのもオーナーにとっては魅力。「併設しているホテルのブランド力が高ければ、そのビルのオフィス賃料も高くなる傾向」(沢柳氏)だからという。
アパホテルのようにホテル運営会社が建物を直接保有、あるいは賃借するなら、運営リスクはホテル側が負うため、自社競合をいとわず大量出店できる。しかしホテルマネジメント契約の場合は運営リスクはオーナーが負うため、近隣に同じようなホテルがあり、自社競合が生じるようではオーナー側が納得しない。そのため、マリオットが同じ地域で複数のホテルを展開するためには、それぞれ異なるブランドとし、ターゲットを変える必要があるのだ。例えば、これから銀座にオープンする中級クラスの「アロフト」や「ACホテル」は、同じ価格帯で既に進出済みの「コートヤード」とは異なり、若者向けに振っているのが特徴。「エディション」はマリオット内の最高級ブランドの位置づけだが、ラグジュアリーホテルとして知名度が高い「ザ・リッツカールトン」とは異なり、最近トレンドとなっているライフスタイル系ホテルをうたう。
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