2019年9月27日、東京・日本橋に進出した誠品生活。「万年赤字」のどん底時代を乗り越え、台湾を代表するカルチャーストアへと飛躍した。起死回生の一手となったのは、祖業である書店を核にした鮮やかな業態転換。グループを率いる呉旻潔(マーシー・ウー)会長が単独インタビューで明かした。
重要なのは「空間を鑑賞する力」
誠品生活はなぜ、独創的な空間を次々と生むことができるのか。創業者でかつ、呉会長の父である呉清友氏(ロバート・ウー、2017年に死去)のDNAが今も息づいているからだ。
「空間とは、形のないもの。誠品の店舗はもちろん、このホテル(誠品行旅)も、オフィスも、私の自宅もそう。父の思い、好みがいろいろな場所に反映されている。私も含めて社員が父から学んだことは、空間を鑑賞する力。自発的に空間から学び取ろうという姿勢はすごく重要。よくセンスという言葉を皆さん使うが、父はセンスよりも気品という言葉を好んで使っていた」
清友氏はもともと美術品の収集家として知られていた。良し悪しを見分ける審美眼を持ち、一目見て寸法を言い当てられるほどの洞察力があった。
「誠品のバイヤーは、もともと目利きに優れていたわけではない。自ずと勉強することで鍛えられてきた。経理部門の人がギャラリーの展示を見に行くなど、どの社員にも、自分に足りない知識を学ぼうとする姿勢がある」。カリスマ亡き後も、誠品が誠品であり続ける理由はそこにある。
誠品生活のすごさを世の中に示したのが、06年1月にグランドオープンした信義旗艦店だ。台北市内で最も地価の高い場所に、地下2階、地上6階、延べ約4万6280平方メートル(約1万4000坪)という圧倒的なスケールで誕生した。「読書と暮らしの博物館」をコンセプトに、国内外から300ものブランドを集めた。
大きな書店売り場に加え、ファッションや雑貨、レストラン、ベビー用品、CD・レコード、食品から、日本の文房具、北欧のインテリア、台湾のデザイナーブランドを専門に紹介するコーナーまで多彩なジャンルで「誠品セレクト」を押し出した。信義旗艦店のボリュームゾーンは25~45歳。中高生も学校帰りに足を運ぶなど、若い世代にも裾野が広がった。まさに1日中過ごせる新感覚のセレクトショップとして、急速に市民権を得たのだ。
書店を核に暮らしを再編集した店は当時、日本にすらなかった。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が東京・代官山に蔦屋書店を構えたのは2011年の12月。誠品生活は日本より6年も時代の先を行っていたのだ。
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