2019年9月27日、東京・日本橋に開業した誠品生活。台湾全土と香港、中国に店を広げ、さまざまな文化を発信してきた。拡大の一途をたどるグループを率いる呉旻潔(マーシー・ウー)会長は、どんな決意で日本に進出したのか。ロングインタビューで胸の内を語った。

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誠品生活の呉旻潔会長。背丈をはるかに超える大きな本棚をバックに、日本進出への思いを語った(「誠品行旅」の一室で)
誠品生活の呉旻潔会長。背丈をはるかに超える大きな本棚をバックに、日本進出への思いを語った(「誠品行旅」の一室で)

 台湾文化の発信地、松山文創園区。ここに、誠品生活がつくり上げた世界でただ一つのホテルがある。誠品行旅(eslite hotel、エスリテ・ホテル)だ。

 「万巻の書を読み千里の道を行く(To read is to live a thousand lives. To travel is to discover the world.)」。そのコンセプト通り、ロビーには壁面を埋め尽くす5000冊以上の本と、イタリアの高級家具ブランド「カッシーナ」の椅子が整然と並ぶ。足を踏み入れた瞬間、別世界にタイムスリップした気分になる。

誠品行旅のロビー。5000冊以上を収納する本棚が圧巻だ
誠品行旅のロビー。5000冊以上を収納する本棚が圧巻だ

 「アジアで最も優れた書店」「世界で最もクールな百貨店」。海外メディアからはそう評されるが、誠品生活のコンテンツは驚くほど広い。祖業である書店を核に、映画館やコンサートホールまで備えた店がある。信義旗艦店には台湾の農産品も並ぶ。2015年には、ついにホテル事業に進出した。多彩なジャンルを融合した独自のビジネスモデルを、誠品生活は「文化創意産業(カルチャー・クリエイティブ・インダストリー)」と呼ぶ。ライフスタイルよりももっと深い、その土地の文化そのものを創る、先駆的な店を形にしてきた。

 ホテルも、1室1室に文化が宿る。壁いっぱいに広がる本棚と、欧州から取り寄せた調度品の数々。凛とした気品漂う空間。まさに万巻の書を前に、呉旻潔会長は、語り始めた。

「深い台湾」を伝えたい

 「このシールは、おそらく日本の方が台湾に抱くイメージを代弁している」。そう言って取り出したのは、日本の文房具メーカーが販売する1枚のシールだ。小籠包や台湾ビール、タピオカミルクティー、ドラゴンフルーツ、マンゴーかき氷、台湾茶といった、台湾と聞いて我々が思い浮かべるであろう名物が、愛らしいタッチで描かれている。

 日本は今、空前の台湾ブームに沸く。「タピ活」という言葉が生まれるほど、タピオカが社会現象となり、豆花(トウファ)や芋園(ユーユェン)など、台湾スイーツの専門店に行列ができる。傍目から見たら出店するには、絶好のタイミングだ。しかし、呉会長はこのブームを一歩引いた目で見ていた。

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