日本でも「expo」職人を発掘へ

 実は、expoは日本橋店にも“輸出”された。そこには2つの目的があるという。1つは、台湾のexpoブランドをポップアップショップとして日本に紹介すること。第1号が「布物設計(BUWU DESIGN)」だ。「布(BU)」「物(WU)」とある通り、テキスタイルに幾何学的な模様を描いたデザインブランドで、カラフルかつ実用的なファッションやバッグ、食器、インテリアがそろう。expoというプラットフォームがあったからこそ、海外へと販路が広がったのだ。

誠品生活日本橋にも「expo」を常設した
誠品生活日本橋にも「expo」を常設した
expoブランドとして初めて海外に進出した布物設計。写真は台北松山店
expoブランドとして初めて海外に進出した布物設計。写真は台北松山店

 もう一つの狙いは「日本の職人技をexpoという枠で紹介すること」(呉会長)。台湾で多くの手仕事を紹介してきたように、日本でもきらりと光る才能を発掘したい考えだ。日本橋にexpoを設けたことは、日本でも新たな文化を育むという意思表示でもある。

 誠品生活日本橋は、台北の松山店と同じく、体験を前面に押し出した。松山店にはガラス工房以外にも、絵画やオリジナルノートから、革製品、オルゴール、アクセサリー、刺しゅうに至るまで、13ものワークショップが用意されている。その一部を日本風に編集してみせたのだ。

映画もフードも目利きが光る

 一方で、松山店には、スペースの関係で、日本に持ち込めなかった空間も多くある。例えば地下2階の「誠品電影院(アートハウス)」は、200台湾ドル(約700円)で映画が鑑賞できる。大中小の3つのスクリーンがあり、一般的な映画館とは異なり、最新映画に加えて古典的な名作も上映している。映し出す作品はすべて誠品生活がセレクト。ここにも目利きが生かされているのだ。

新作から名作までさまざまな映画をセレクトし上映する誠品電影院
新作から名作までさまざまな映画をセレクトし上映する誠品電影院

 松山店は361席の表演廳(パフォーマンスホール)も備える。半年ごとにテーマを変え、欧米など世界各国から著名なアーティストを招く。舞台を通して、海外の文化に触れられるようにしているのだ。フードホールは台湾の夜市をイメージし、実際に夜市の名店を集めるなど、食のセレクトショップのようだった。

フードホールは台湾の夜市の雰囲気を再現し、店も夜市の人気店を集めた
フードホールは台湾の夜市の雰囲気を再現し、店も夜市の人気店を集めた

 誠品生活は今、拡大路線を歩んでいる。18年12月には、中国・深圳に進出。19年7月には台湾南部の高雄に、英国風の空間デザインを取り入れた「高雄悦誠店」をオープンした。

 18年9月には、台北MRTの中山駅のすぐそばに、南西店を開業した。同年5月に閉店した新光三越台北南西店の2号館を改修。6階建て約2万平方メートル(6000坪)の売り場は、日本企業にとっても実験の場になった。マツモトキヨシやスフレパンケーキの専門店「FLIPPER'S(フリッパーズ)」、スペシャルティコーヒー専門店の「猿田彦珈琲」が台湾に初出店。猿田彦珈琲はこの店を足掛かりに誠品と合弁会社を設立し、その縁で日本橋にも店を構えた。日本で台湾ブームが続くなか、誠品は日台をつなぐ架け橋になり始めている。

18年9月にオープンした台北の南西店。地下書店街「R79」から目と鼻の先にある
18年9月にオープンした台北の南西店。地下書店街「R79」から目と鼻の先にある

 誠品生活は日本進出に当たり、三井不動産と合弁会社「誠品生活MF」を設立した。今後、三井不動産が展開する商業施設を中心に、2号店、3号店を展開していく計画だ。そう考えると、日本1号店に芭蕉の句を掲げたのは、象徴的なエピソードに思える。かつて日本全国を旅した芭蕉のように、誠品生活もまた日本中を行脚し、まだこの世にない空間を、新しい文化を形にしていく。

誠品生活日本橋には、フロアの四隅に、松尾芭蕉の句を漢字で刻んだ照明がある。台湾人の書家董陽孜(ドン・ヤンジー)氏がしたためた
誠品生活日本橋には、フロアの四隅に、松尾芭蕉の句を漢字で刻んだ照明がある。台湾人の書家董陽孜(ドン・ヤンジー)氏がしたためた

(写真/高山 透、酒井大輔)