「1店1店異なる店づくり」と言えば、よくある話だと思われるかもしれない。しかし、誠品生活は「異なる」という次元が違う。外観、内装、コンセプト、売り場のレイアウト、どれをとっても驚くほど店構えが異なるにもかかわらず、「誠品らしい」としか形容できない世界観で統一されている。その土地の文化をうまく空間に落とし込み、独自の解釈を加えて編集する。その編集力の高さや空間の作りこみは、他の追随を許さないほどクオリティーが高い。

台北MRT中山駅の地下街に延びる「R79」。R7、R9という2つの出口を結ぶ全長300メートルの通路に書店や雑貨店などが並ぶ。壁面には古今東西の作家や文学作品が紹介されていた。これも誠品生活の店舗だ
台北MRT中山駅の地下街に延びる「R79」。R7、R9という2つの出口を結ぶ全長300メートルの通路に書店や雑貨店などが並ぶ。壁面には古今東西の作家や文学作品が紹介されていた。これも誠品生活の店舗だ

 日本橋店の設計を手掛けたのは台湾を代表する建築家、姚仁喜(クリス・ヤオ)氏。江戸時代から続く日本橋の歴史と現代の工芸をつなぎ、「文化の流れ」を表現した。藍色ののれんも、「熈代勝覧」を現代によみがえらせる編集である。全く新しい試みにもかかわらず、そこはかとなく文化が薫る「誠品らしい」店に仕上がった。

無名のデザイナーを発掘し育てる

 誠品生活は1989年、台北で産声を上げた。書店やギャラリーから始まり、今や地下街やホテルまで手掛ける「台湾の顔」というべき企業に成長した。誠品を語るうえでよく引用されるのが、海外メディアの評価である。2004年には米タイム誌が、24時間営業で知られる台北の敦南店を「アジアで最も優れた書店」と評した。16年には米CNNが台北の松菸(松山)店を「世界で最もクールな百貨店 14」に選出した。

 しかし、誠品生活は書店や百貨店という枠には収まらない。誠品生活は、蔦屋書店のモデルとしても知られるが、実は、蔦屋書店のようなライフスタイル店舗でもない。その実態は「カルチャーストア」。文化そのものを育んでいる点にこそ、すごみがある。

誠品生活の松山店。曲線が美しいこの建物は、伊東豊雄氏が設計した
誠品生活の松山店。曲線が美しいこの建物は、伊東豊雄氏が設計した

 台北松山空港から車で10分ほど。松山店は、台湾文化の発信地として知られる「松山文創園区」にある。日本統治時代に操業した築80年超のたばこ工場(現在は複合商業施設へとリノベーション済み)に隣り合う、地上3階、地下2階のスタイリッシュな商業施設である。

 格子状に区切られたガラス張りのファサードと、曲線美が際立つこの建物を設計したのは、建築家の伊東豊雄氏。2013年に開業し、15年には「誠品行旅(eslite hotel、エスリテホテル)」というホテルを併設した。「世界で最もクールな百貨店」の一つに選ばれただけあって、店内は百貨店のように衣食住のすべてがそろう。しかし、広大な売り場に並ぶのは、百貨店によくある高級アパレル、高級コスメではない。すべてメード・イン・台湾のブランドだ。

 象徴的な売り場が、正面エントランスからすぐ、最も目立つ場所に常設された「expo」である。正式名称は「expo誠品生活文創平台」。名も無き台湾ブランドを独自に発掘し、育て、独り立ちさせるプラットフォームだ。松山店の開業とともにスタートし、このexpoを通じて、多くのブランドが大きく羽ばたいていった。我々が台湾文化に抱くイメージの多くを育んだプラットフォーマーが、誠品生活なのだ。

正面エントランスの目の前にあるexpo。台湾ブランドを発掘し、育てる場だ
正面エントランスの目の前にあるexpo。台湾ブランドを発掘し、育てる場だ

 expoには、5つのステップがある。まずは店内の目立つ区画で半年間販売する。売れ行きが好調ならポップアップストア(第2段階)となり、反響が大きければテナントに“昇格”(第3段階)させる。その後も順調に業績が拡大すれば、独立店を構える支援をする(第4段階)。最終ゴール(第5段階)は、海外展開だ。まさに赤子が大人になるように、長い時間をかけて「育ての親」を務め上げるプロジェクトだ。

 商品には自信があるが、発信する場所がない。そう悩む若きデザイナーやクリエイターに、誠品生活が売り場を提供する。これがexpoである。どのように商品を陳列すれば売れ行きが伸びるか、どのように包装すれば目を引くかなど、店づくりのノウハウまで惜しみなく伝える。

 誠品生活には、一般的なバイヤーとは別にexpo専門のバイヤーがいて、磨けば光る原石を台湾全土で探している。それは、誠品生活のルーツに通じる。30年前、書店から始まった誠品には、もともと選書する、セレクトするという目利きの文化が根付いていた。こうした企業風土を手仕事に持ち込んだのが、expoだと言える。

 インテリア用品、文具、美容、ベビー用品、ファッション、食品、アウトドア。このexpoで紹介したブランドは、「300~400に上る」(呉会長)。誠品生活のexpoを見れば、未来のヒットが見える。そういっても過言ではないほど、台湾中の才能がここに集まっている。

 expoは松山店の他、信義旗艦店など、台湾の15店舗で展開する。最も広い売り場を構えるのが、松山店だ。エントランス付近に加え、2階にもexpoの特設スペースがある。半年間のお試し出店で高評価を得た精鋭ブランドが集まり、雑貨から衣服、靴まで確かなセンスを感じる商品が並ぶ。売り場の奥には、本格的な釜を備えたガラス工房もあった。

2階のexpoは、粒ぞろいの台湾ブランドが並ぶ。写真は、京都にインスパイアされた台南のシューズブランド「hanamikoji(花見小路)」
2階のexpoは、粒ぞろいの台湾ブランドが並ぶ。写真は、京都にインスパイアされた台南のシューズブランド「hanamikoji(花見小路)」
ガラス工房は、松山店のランドマーク。誠品生活日本橋にも“移植”された
ガラス工房は、松山店のランドマーク。誠品生活日本橋にも“移植”された

 このexpo売り場から抜け出し、誠品生活のテナントとなったのが「茶籽堂(cha tzu tang)」。5つのステップで言えば、3段階目に当たる。茶籽とは、「お茶の実」のこと。茶籽を使ったシャンプーやボディーソープ、ハンドソープ、食器洗い用洗剤で人気を博し、17年9月に松山店の2階に専門店として開業した。

誠品生活のテナントになった「茶籽堂」。お茶の実を使ったソープ類が人気で、expoの第3段階に到達した
誠品生活のテナントになった「茶籽堂」。お茶の実を使ったソープ類が人気で、expoの第3段階に到達した

 ブランドを発掘し、育てるには相応の時間と費用がかかる。なぜ、そうまでして力を注ぐのか。「スターブランドに育てて儲けようとは思っていない。誠品には場所がある。この場所を、若いクリエイターやデザイナーのために使うことで、自らの思いや商品、ブランドストーリーを伝える機会を創出したかった」(呉会長)。時には、誠品自身がexpoのブランドに出資することもある。茶籽堂もその一つ。こうした独自のプラットフォームが、まわりまわって個性となり、誠品のブランド力を押し上げた。

 expoのブランドには今や、他の商業施設からも出店のオファーが届く。いわゆる「引き抜き」だが、引き留めはしない。「私たちが一生懸命育てたブランドが、大きくなったらよそへ行ってしまう。悲しい気持ちにもなるが、マーケットを広げたい、会社としてもっと成長したいと願うなら、誠品だけに頼ってはいけない」と呉会長は力説する。