世界195カ国で4400万人以上のユーザーを抱えるアスリート向けSNS「Strava(ストラバ)」はなぜブレイクしたのか。コネクティッド・フィットネスが盛り上がる要因とは。日本にも本格参入したStravaのジェームズ・クォールズCEOに聞いた。
スマートフォンやウェアラブル機器などを使って運動データをオンラインで管理したり、自宅にいながらフィットネスジムのレッスンにリアルタイムで参加できたりする「コネクティッド・フィットネス」が、米国を中心に世界中で盛り上がっている。ここではコネクティッド・フィットネスが我々の日々の運動やフィットネス業界をどう変えていくのかをテーマに、その最前線を特集する。
第1回は「アスリート向けSNS」として米国で大ブレイクし、世界195カ国で4400万以上のユーザーを抱えるStrava(ストラバ)のジェームズ・クォールズCEOに、ブレイクの要因を聞いた。
Stravaを立ち上げたきっかけは。
Strava ジェームズ・クォールズCEO(以下、ジェームズ) 大学時代にボート仲間だった創業者の2人が一緒にデジタルでスポーツを楽しむ会社をつくろうと、2009年に会社を立ち上げました。まずサイクリングからスタートしてランニングの方に拡大したわけですが、我々がアスリートと呼ぶユーザーが現在は4400万にもなりました。
仲間同士で使うためのものだったということでしょうか。
ジェームズ 最初の25~50人くらいのコミュニティのメンバーは創業者それぞれの友人だったのですが、当時はまだ携帯電話にGPSが付いていないような時代だったので、そこからGPS機能を搭載したモバイルアプリになって消費者のベースが非常に大きくなりました。
走った距離などの運動データを記録するアプリや、ソーシャルメディアという意味ではFacebookなど既存サービスを使ってできることもあったと思いますが、何を求めて「アスリート向けSNS」をつくったのでしょうか。
ジェームズ 私のソーシャルメディアでの経験をもとにいえば、ソーシャルメディアは「コンテンツ」と「ネットワーク」で定義できます。Stravaは何よりもまず、アスリート自身が実際に汗を流して走ったり、サイクリングしたりした結果がコンテンツなんです。 同時に、同じ関心と情熱を共有するネットワークなので、興味が異なる友人や会社の同僚、親などとつながらなくてもいい。最近のソーシャルメディアの傾向として、専門的な内容に特化したネットワークが増えています。Stravaはスポーツという目的の下に構築されたネットワークですので、政治や飼い猫に関することなど、このネットワークの興味、関心に関係がない内容は出てこないわけです。
Stravaにおけるコンテンツとは具体的にどういう意味ですか。
ジェームズ 今朝皇居の周りを走りましたが、これが実際に走ったルートです。そこで撮った写真も見られます。心拍数などを含む私のデータも確認できます。あとは走ったルートの高低差ですね。スピードなどの情報もありますが、一番興味深いのは、前回皇居を走ったときと比べてパフォーマンスがどう変化しているかを比較できる点です。2016年にも東京に来ましたが、今回のほうが速く走れました。「セグメント」という走ったルート上に任意で設定されている区間で、2016年は2分18秒かかっていたのが今回は1分48秒になりました。
自分の運動データをさまざまな形で記録し、それを活用してコンテンツ化していると。
ジェームズ 他のユーザーのパフォーマンスやアクティビティーを見て、コメントを投稿することもできます。他にもヒートマップという機能で、東京の街の中で人気のランニング、あるいはサイクリングのルートが示されています。より人気の道路ほど明るい色で、明るい線で示されています。これもコンテンツです。
人気の度合いなどはある程度のユーザー規模がないといった出せないデータですね。
ジェームズ アクティビティーは現在(2019年6月時点)までで20億を超えています。最初の10億を超えるまでは8年かかりましたが、その次の10億は18カ月で行われたものです。ヒートマップを見ると、全世界で非常に多くのアクティビティーが行われていることが一目瞭然です。
Stravaアプリは無料で利用できますが、収益源は何なのでしょうか。
ジェームズ 収益源は3つあります。トレーニング機能や分析機能、安全機能を備えた有料サービス「Strava Summit」が1つ目。2つ目は「Strava Metro」で、データを匿名化した形で提供し、例えばバイクレーンを造ったときにそれが及ぼす影響を予測するなど、都市計画の際に使うもの。3つ目は「Strava Challenges」で、決まった距離を走ったり、決まった高さを上ったりといったチャレンジをスポンサーがStrava上で主催することができます。
有料サービス「Strava Summit」では具体的にどういう機能を提供していますか。
ジェームズ 主に3つの機能があります。1つ目は例えばこのレースに出場すると決めたときに、それに沿ったトレーニングプランを作ることができます。2つ目は分析で、心拍数などの単純なバイタルデータだけでなく、今朝行ったトレーニングが今週前半に行ったトレーニングと比べて負荷はどう違うかなど、情報を相対的に見ることができます。3つ目は安全機能ですが、Beaconが付いていて、指定した3人にリアルタイムで位置情報を伝えられるものです。例えば夜間走るときに今どこを走っているのか知らせることもできますし、家に帰っているところだと家族に知らせたいときにも使える機能です。
また無料の「クラブ」という機能があり、他人とグループを作って決まった期間の進捗を確認し合ったり、チャレンジということでほかの人と競争したりできます。そこでは、クラブのメンバーが今月走った距離の合計を表示され、一番長い距離を走っているのは誰かが分かります。
自転車やランニングにのめり込んでいる人がメインユーザーだと思いますが、もっとライトな人たちを開拓して裾野を広げる施策は考えていますか。
ジェームズ Stravaに必要なことは、汗を流すこと、体を動かすこと、それだけです。ウルトラトレイル・マウントフジに参加された方のストーリーから影響を受けても、誰もが「じゃあ、自分もウルトラトレイルを走ろう」とは思わないわけです。あくまでも目標達成のためのツールとしてお使いいただくということで、目標は「毎日5キロ走る」「東京マラソンを完走する」などさまざまなことが考えられます。誰かが目標を達成し、それが刺激となって自分も頑張る、というふうに使っていただければと思います。
もう1つ非常に日本的で面白いことなんですけれども、日本の方は非常にクリエイティブで、浜元信行さんという方がフェースマラソン、顔マラソンということで、実際にマラソンで走ったルートをGPSでトラッキングしたものを使って地図上に顔を描くという取り組みをやっていらっしゃいまして、それも非常に興味深い。
マップでドローイングするのは日本独自のものなのでしょうか。
ジェームズ 世界中でありますよ。「Stravaアート」という名前が付いているくらい、いろいろなドローイングが世界に存在しています。顔マラソンに関していうと、彼らが描く顔の長さが42.195キロなんですよ。面白いだけじゃなくて、ちゃんとランニングもしているんです。各都道府県に顔マラソンコースができているくらいです。
ドローイングがモチベーションの維持要因になっているということですね。
ジェームズ そうですね。これはちょっと顔マラソンではないんですけど、「干支(えと)ラン」という毎年の干支を書いている人たちもいます。
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