歴代のデジタル大臣による史上初の新春鼎談の後編。デジタル庁をゼロから立ち上げた初代の平井卓也氏、2代目の牧島かれん氏、現大臣の河野太郎氏が一堂に会し、日本のデジタル化のこれまでと現在地、そして未来を語った。後編では、徐々に変化している日本の自治体の例や、「どうすれば日本のデジタル化を国民に応援してもらえるのか」について語り合った(聞き手は日経クロストレンド編集長 佐藤央明)。
▼前編はこちら 史上初!歴代デジタル大臣3人鼎談 日本のDXには何が足りない?各国デジタル施策の広報合戦
――デジ庁が発足することによる波及効果は、色々な省庁に及ぼしているというのが実感としてあるようですね。
牧島かれん氏(以下、牧島) 司令塔機能とはいえ、「これやってください」と命ずるというよりは、先ほど、平井先生がおっしゃったみたいに、協力してもらうために、どうやって関係構築をするかみたいなところは、かなり心掛けてやってきたつもりではあるんですよね。それが奏功しているのではと思います。
平井卓也氏(以下、平井) けれども、やっぱりデジタル化の遅れというのは、我々日本人は認識しなきゃいけないと本当に思うね。この国の将来を考えたとき、デジタル経済圏の中での成長力、競争力なしには戦えないから。韓国や台湾にも事実上抜かれているよね。
牧島 諸外国との比較で言えば、地政学上のリスクと国民の意識というのにも関連性はあって、そうした要素もデジタルの推進スピードを左右する、というのが私の分析です。
河野太郎氏(以下、河野) 私が外務大臣時代、外務大臣会合を2国間でやるときは、「日本は援助をする用意があるから必要なことは言ってくれ」と言っていたのに、デジタル大臣になって会談をやると、「日本のデジタル化のために我が国は援助をする用意がある」と逆に言われる(笑)。コロナ禍で一気にこれだけやったぞ、とアピールする国が多いという印象もある。
平井 そうなんだよ。日本が先頭を走っているとは思われていない、ってことを我々は認識しておかないと。それだけ、各国はデジタル化に力が入っている。
河野 特に、バーレーンやカタールなどはコロナ禍で一気にデジタル化を進めたことを強調していますね。
牧島 コロナ禍でも権威主義国家の方が国民のデータを活用した対策が打ちやすく、より効果的な施策になるのではないか、という指摘もありました。しかし、プライバシーを保護した上でイノベーションを起こしていく、しかも巨大IT企業任せにしない、という点が日本の特徴になると思っています。分野によっては日本がリードしている技術もある。ただ、みんな頑張っていることを各国がアピールしているフェーズに入っているから、私たちも広報はしないといけないですね。
――デジ庁が日本のDXを主導するために、より厳しく勧告権(行政のデジタル化に関してデジ庁が他省庁に意見を勧告できる権利)を行使するという考え方もあります。
河野 勧告権は“伝家の宝刀”みたいな位置づけでありますが、私は就任時の最初の記者会見で、「必要だったら積極的に活用する」と言ってます。“伝家の宝刀”ではなく“菜切り包丁”くらいの普段使いのイメージで伝えたつもり。おかげさまで今のところは使っていませんが。
平井 その一言が効いているんだよね。勧告権は使ったらいいと思いますよ。そういう局面も必ず来ると思うんで、躊躇(ちゅうちょ)せず。
牧島 私のときは勧告権は使いませんでしたが、持っているという意義はやはり重い。各省庁、 勧告権を持っているデジタル庁、として意識していたのだろう、と受け止めています。その上でこちらとしてはまずは協力を要請する、その姿勢が大事だったと最初の1年目を振り返ると感じています。
――ただ、まずは農水省のように変わっていってもらうのが一番良い。
平井 そう、自ら変わらないとね。誰かに言われて変われるものでもないんですよ。本人が納得して、自ら変えようという気にならないと。そこなんだよね、日本のデジタル化って。無理やりやらされるものではないし、もっと言えば、デジタル化は目的ではないし。自らこう変わりたいと思う手段としてデジタル化があるっていう認識をもっと広げていかないと、日本の競争力は戻らない。
牧島 おっしゃる通りだと思います。デジ庁任せにさせない、どの省庁も当事者である、ということだし、社会全体で見ても、一人ひとりがデジタル社会のプレーヤーになってほしい。
――デジ庁と同様に、他の省庁も民間の人材を入れていくというやり方もある。
平井 金融庁なんか、そういう意味では最近変わってきたよね。民間の人たちが入るとガラッと雰囲気が違ってくる。あそこは、一種のリボルビングドア(回転扉を通るように、人材が官公庁と民間を自由に出入りすること)ができている。もう、財務省とはえらく雰囲気が異なっている。
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