日本をデジタル化する司令塔として、2021年9月に発足したデジタル庁。推進の基盤となるマイナンバーカードの申請件数は22年12月に8000万件を超え、官公庁や地方自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)も強力に推し進めている。その同庁をゼロから立ち上げてきたのが、初代デジタル大臣の平井卓也氏、2代目の牧島かれん氏、現大臣の河野太郎氏だ。今も一枚岩となりスクラムを組む3人が初の鼎談を行い、日本のデジタル化のこれまでと現在地、そして未来を存分に語った(前編・聞き手は日経クロストレンド編集長 佐藤央明)。
――今回、元デジタル大臣の平井さん、前大臣の牧島さんにデジタル庁(デジ庁)まで来ていただき、現大臣の河野さんとともに鼎談する企画が実現しました。平井さんは久しぶりに同庁に来たわけですが、そもそも霞が関ではなく、この場所(千代田区にある東京ガーデンテラス紀尾井町 19階、20階)にデジ庁を構える決断をされたのが、平井さんご自身ですよね。
平井卓也氏(以下、平井) そうなんです。実は、ここの方が霞が関界隈(かいわい)より条件が良く、我ながら良い決断だったと思います。
河野太郎氏(以下、河野) ただ、ランチがちょっと苦労するよね。
牧島かれん氏(以下、牧島) 下の階に行けば、パスタとか焼き鳥弁当、親子丼とかありますよ。
河野 けれど、その焼き鳥弁当の値段を見たら、結構高い(笑)。他もランチの値段は高い。
牧島 毎日のことだと職員の皆さんは大変かもしれないですね。手ごろなところでは成城石井のお弁当はおいしい。
平井 後は、フレッシュネスバーガーもあるよ。
河野 フレッシュネスバーガーはおいしいね。
牧島 下にあるカレー店(エリックサウス)も有名店ですよね。ところで、今日はこんな話で盛り上がっていいのでしょうか(笑)。
河野 1階の広場には日替わりでキッチンカーも出ている。僕が好きなメニューはソーキそばとか。
牧島 まだご飯の話してる(笑)。こうして、3人は連携が取れているということで。
霞が関的なヒエラルキーをぶっ壊した組織
――フランクに話せる間柄ということですね。では、改めまして3人の鼎談を進めていきます。皆さん、デジタル大臣を経験され、それぞれ思いや苦労した点があるかと思います。平井さんから順番にお話しいただければと。
平井 僕の場合、初代デジタル大臣に任命される前のデジタル改革担当大臣として、関連5法案(注1)と総務省の1法案(地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案)の計6法案を通さねばならなかった。規制改革に関することで、本来、河野さん(当時、規制改革担当大臣)のところで出すべきものもこっちで引き受けたのです。さらに、あのとき大きかったのが、個人情報保護法関係3法を改正して1本の法律にしたのと、地方自治体の条例との関係も分かりやすくしたこと(注2)。こうして、多くの法律を通すことと、それと同時にデジタル庁をスタートさせるための人の確保、オフィスの確保を短期間で一気にやったという意味では、ものすごく忙しかったですね。
デジタル庁という影も形も設計図もない組織を実質11カ月で立ち上げる中で、法律も同時進行。ポイントは、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)を廃止して、デジタル社会形成基本法を成立させたこと。これが日本における“デジタル化の憲法”で、これからずっと受け継いでいくことになるものです。この法律を作るために、民間の有識者との会議もものすごい回数を行った。朝7時から先にやっておいてもらって、途中から私が参加する2段階方式にしたりして、ほとんどをウェブ上のリモート会議で実施したんです。
ただ、かえってウェブの方が効率的な点が実はあって、もちろん、人間同士で直接会って決めなければならないこともあるんだけども、色々な情報共有を積み上げていったりとか、意思決定に至るまでのプロセスの意識合わせみたいなものは、デジタルで十分にできることを肌で感じたわけです。まあ、現実的には(新型コロナウイルス禍で)デジタルでやるしかなかったのですが。
そうした過程を経て、デジ庁が2021年9月に立ち上がり、牧島さんにバトンを渡し、それが3代目の河野さんに受け継がれていくわけなんだけど、当初作ったデジ庁のミッション、ビジョン、バリュー(MVV)(注3)の延長線上で河野さんには組織を強化してもらっている。今1000人くらいになったのかな。
河野 現時点(22年12月)では800人。今後、200人増やすから、来年度で1000人ですね。
平井 大きくなったなと思いますよね。私が大臣のときは600人だった。それも、かき集めた600人だからね(笑)
――確かに目的も考え方もバラバラの人がとりあえず集まったのが当時の組織。そこからMVVを共有していくことで変わっていったんですね。
平井 それに加え、霞が関的なヒエラルキーをぶっ壊した組織をつくろうということで、プロジェクトベースで物事を進めようとした。ただし、こういうフラットな組織にしようというのは、頭で分かっても霞が関の人たちは体がついてこなかったね。今でもついてきていない部分もある。
牧島 ただ、このデジ庁内はフラットな文化が大分醸成されました。
平井 僕は、霞が関とは最もそこが、違う点だと考えている。だけど、やっぱり、時間の経過とともに、普通の役所になろうとする力が働くとも思うしね。その力に対抗するため、「Government as a Startup」という言葉を僕が作ったんだけど、とにかく大胆かつスピーディーに社会全体のデジタル改革を主導していくのがデジ庁の役割。加えて、常に自分で自らの組織を見直して変えていくということを、インプリ(実装)しておかないと、いずれ時代に合わない組織になってしまうし、環境の変化に耐えられないと思うんだよね。
既に、サイバーセキュリティーの問題とか、Web3系の話であるとか、個人情報やプライバシーのことなど、デジタル化を取り巻く問題や関心事が常に変わっているし、特に今はAI(人工知能)がとんでもないことになっている。AIが社会実装されていく中で、デジ庁の役割も非常に大きく影響を受けると思うんだよね。
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