置き配バッグで利用者を拡大する、物流系ITスタートアップのYper(イーパー、東京・渋谷)。内山智晴代表取締役に聞くインタビューの前編では「サブスクOKIPPA」や「OKIPPA BOX」など付加価値を高めるサービスをスタートした狙いなどを聞いた。後編ではOKIPPAを開発した背景や再配達問題解決への思い、今後の展開などを話してもらった。(聞き手は日経クロストレンド編集長・吾妻拓)

Yper代表取締役。1985年生まれ。京都大学大学院 地球環境学舎修了。2012年より伊藤忠商事機械カンパニー航空宇宙部に勤務。前職では航空機の販売および改修、航空機装備品の国内開発案件に従事。17年8月Yper設立
Yper代表取締役。1985年生まれ。京都大学大学院 地球環境学舎修了。2012年より伊藤忠商事機械カンパニー航空宇宙部に勤務。前職では航空機の販売および改修、航空機装備品の国内開発案件に従事。17年8月Yper設立

前編はこちら

創業後、解決策転換のため配送員に

編集長・吾妻 拓(以下、吾妻) そもそもOKIPPAをスタートしたのはなぜだったのですか?

内山智晴氏(以下、内山氏) 日本だけでなく世界各国で社会インフラになるシステムをつくりたいと思い商社に就職しましたが、当時は米Airbnbや米Uberの台頭期。ハードではなくソフトでインフラを構築していることに刺激を受け、自分でも挑戦したいと考えたんです。そこで注目したのが海外と比べても圧倒的に優れた宅配システムでした。

 17年8月には「日本の再配達問題を解決する」という目的でYperを創業。当初は堅牢(けんろう)な宅配ボックスを自動販売機のように街中に置く、「簡易宅配ボックス」のサービスを始めました。

吾妻 なぜ再配達問題だったのでしょう。

内山氏 日本は宅配インフラが確立されていますが、再配達率が高い。19年10月の再配達率は15%で、大手配送会社がシステム化していても、まだこれだけの再配達があったわけです(※国土交通省発表の数字)。

 ただ当初始めた簡易宅配ボックスは、用意するのに1台当たり30万円弱かかるのに対し、1日の回転率が低かったんです。結局、コストを考えると1回あたり、約130円の利用料を徴取しないと、システムを維持できないことがわかりました。

 一方、都内に相当数の簡易宅配ボックスがないと、配送会社は利用しがたいため利用料の負担は望めません。ユーザー側は現状では再配達料は無料と考えているので、有料だと利用されないんです。改めて物流の知識の必要性を実感しました。

吾妻 前職で物流に携わっていたわけではないのですよね。

内山氏 商社時代は航空関係の担当でしたので……。結局、創業した年の年末には、経験を積むため、当初のアイデアをピボット(事業の方向転換)し、配送会社で配送員として働かせてもらうことにしました。

 実際に働いてみると、「玄関前まで行って荷物を持ったまま戻る」ことの無駄を痛感することになって。それなら玄関前に置いていければいいのではないかと思ったんです。すでに食料品の配送システムや、遡れば牛乳配達などで「玄関前(横)に置いておく」習慣があるのに、なぜ宅配ではないのかと疑問に思いました。

吾妻 実際に配送員として働きながら、次の展開を考えていたのですね。

内山氏 日本の治安の良さを生かして受け取るソリューションを考えたのですが、当時はまだ「置き配」ができず、かつ玄関前スペースの確保も課題でした。傘立てを置きたい、自転車を置きたいとなると週1、2回しか使われない堅牢な宅配ボックスは玄関前に置く場所がない。何かコンパクトで常に玄関前に設置できて、必要なときに使えるものはないかと考えているときにネットで見つけたのが、マーナ(東京・墨田)さんのエコバッグ「Shupatto(シュパット)」でした。

吾妻 Shupattoは18年7月に100万個達成。20年にはシリーズの累計販売数が700万個と大ヒットしました。ずいぶん早い段階でShupattoに注目したんですね。

内山氏 そうなんです。この技術を使えば大きな荷物を入れられる宅配バッグが作れると思い、マーナさんにすぐに電話をしました。

手にしているのが「OKIPPA」の1号機。現在、バッグの外側のタグには「OKIPPA」と入っているが、「1号機」のタグには「Shupatto」と入っている
手にしているのが「OKIPPA」の1号機。現在、バッグの外側のタグには「OKIPPA」と入っているが、「1号機」のタグには「Shupatto」と入っている

吾妻 最初に作られたOKIPPAからその後、どう改良していったのですか。

内山氏 まず、防水性を高めるために取っ手をなくしました。当初は施錠を外したらバッグのまま室内に運んで開けるかと思ったのですが、玄関前で取り出してしまう人が多いと分かったんです。ですので持ち運びの利便性より防水性を高めることに注力しました。ファスナーをキーロックできるタイプに変更したことも大きいですね。もう一つ、ファスナーの引き手の穴をなくし、誤って施錠しないようにしました。

吾妻 配送員の方はOKIPPAをすぐに宅配バッグと認識できましたか?

内山氏 まずは自分がユーザーとして使うことにし、自宅に来る配送員の方がある程度、決まっていたので、「これが最近出た新しい宅配ボックスです」とお願いしたんです(笑)。最初はしぶしぶながらですが使ってもらえるようになるとやはり便利で、「これで再配達がなくなる!」と思えた。そこで配送会社各社にアプローチしたのですが、大手3社からはセキュリティー的に難しいのではと、受け入れられませんでした。

奥が最初に作ったOKIPPA。現在のOKIPPAは防水性を高めるために取っ手をなくし、ファスナーをキーロックできるタイプに変更。また止水ファスナーを採用
奥が最初に作ったOKIPPA。現在のOKIPPAは防水性を高めるために取っ手をなくし、ファスナーをキーロックできるタイプに変更。また止水ファスナーを採用

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