キリンビールが2020年10月6日に発売した「キリン一番搾り 糖質ゼロ」が売れている。発売から5日間で65万ケースを出荷し、年間販売目標の5割強を達成するなど好調なスタートを切った。指揮を執るのは、17年からマーケティング部長を務める山形光晴氏。本商品がどのようにして生まれたのかを聞いた。(聞き手は日経クロストレンド編集長・吾妻拓)

キリンビール常務執行役員 マーケティング本部マーケティング部 部長、事業創造部 部長の山形光晴氏。1999年4月にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社。2015年8月キリン入社。同年9月、キリンビバレッジマーケティング本部マーケティング部長。17年3月キリンビール マーケティング本部マーケティング部長就任。19年4月 常務執行役員マーケティング本部マーケティング部長兼マーケティング本部マーケティング部商品開発研究所長。20年4月から現職
キリンビール常務執行役員 マーケティング本部マーケティング部 部長、事業創造部 部長の山形光晴氏。1999年4月にプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社。2015年8月キリン入社。同年9月、キリンビバレッジマーケティング本部マーケティング部長。17年3月キリンビール マーケティング本部マーケティング部長就任。19年4月 常務執行役員マーケティング本部マーケティング部長兼マーケティング本部マーケティング部商品開発研究所長。20年4月から現職

糖質ゼロだけど「一番搾り」の名に恥じないおいしさに

編集長・吾妻 拓(以下、吾妻) 日本初の「ビールで糖質ゼロ」に挑戦した背景を教えてください。

山形 光晴氏(以下、山形氏) ビールを飲む方って、みんな少しは健康を気にしているんですよね。「糖質が入ってるな」とか「太るんじゃないかな」って。体に良くておいしいものってなかなかないから、健康かおいしさのどちらかを選ばなければいけないことが多いと思うんです。でも、どうせ飲むならおいしくて体に良いものがいい。この両方をかなえるものをつくりたいと思ったのが、開発のきっかけです。キリンのCSV(共有価値の創造)で取り組む社会課題の一つが「健康」なんです。だからこそ、メーカーとしてチャレンジしたいという思いがありました。

吾妻 開発に5年かかっているそうですね。

山形氏 はい、非常に苦労しました。キリンビールの技術力ならできるんじゃないか、いや、難しいかと、試行錯誤しながらやっていて、時間がかかってしまいましたね。

 やっぱり、本商品の売りである、おいしさを保ちながら糖質をゼロにすること。糖質をゼロにするのは案外簡単にできますが、おいしさを保つのが難しい。最後の詰めに時間がかかりました。5年もかけて苦労して生まれた商品なので、開発研究をしている人から工場の生産者まで、全員でつくったという感じがします。

吾妻 最初から「一番搾り」の冠をつけるつもりで開発していたんですか。

山形氏 決まってはいなかったです。

吾妻 最終的に「一番搾り」としたのはなぜなのでしょう? 

山形氏 「一番搾り」として販売してもいいぐらいのおいしさが実現できたからです。私たちの思いとしては、「おいしいものを提供したい」というのが一番。糖質ゼロのものをつくりたいわけじゃないんです。我々は、一番搾りは一番おいしいビールだと思ってお客様に提供している自信がありますから、今回の商品も「一番搾り」としました。

 それに、間口を広げて、より多くのお客様に手に取っていただくには、「一番搾り」として売るのがいいだろうと。発売するまでドキドキしましたけどね(笑)。

吾妻 ドキドキしたのはなぜなのですか。

山形氏 理由は2つあります。まず、一番搾りではなく、新しいブランドを立てるという選択肢もあったからです。数年前に初めてキリンビールの工場で技術力を見たときに、非常に感動したんです。そのすごさ、進化、イノベーション感を伝えたいと思いました。キリンビールの技術力を駆使した、これまで見たことのないような新しいビールを販売するなら、これまでとは違うブランド、違うコンセプトにする方がいいかもしれない、とも考えました。

 ドキドキした理由のもう1つは、一番搾りというブランドを傷つけないおいしさができているかどうか。完成前に一番搾りとして販売するか決断しなければいけないので、決めるときは緊張しましたね。まあ、私はキリンビールの技術力は日本一だと思っていますし、開発者や生産者が「できる」と言うなら可能だろうと思っていましたけどね。

パッケージを青にした理由

吾妻 ビールを飲む人から、「糖質が気になる」という声はよく聞いていたんですか。

山形氏 実は、そういうことを直接言っている人はいないです。「ビールには糖質が入っているものだ」とみんな認識していますから。

吾妻 半ば諦めのように、「ビールとはそういうもの」と思っていますよね。

山形氏 ビールを飲むし糖質も気にしている方は、糖質ゼロの発泡酒とビールを飲み分けているんです。ですから、ニーズは絶対にあると思っていました。だって、もしステーキがカロリーゼロだったら、みんな毎日食べるでしょう?

吾妻 開発段階の調査でもそのような結果だったのですか?

山形氏 ビールを飲む方に調査をすると、ビールも飲むし、糖質ゼロの商品も飲む方が多いんです。「私本当にビール好きなんです」という方でも冷蔵庫を見てみると、糖質ゼロの商品が1~2本置いてあります。買い物についていくと、カロリーを気にしながらお酒を買っている。そんなに気にするならビールを飲まなきゃいいのにって思いますよね(笑)。

吾妻 パッケージの青が目を引きますよね。青にした理由は何ですか? 糖質オフのビール類は、緑というイメージがあります。

山形氏 私たちが提案したいおいしさや品質に、青がマッチしたからです。おっしゃる通り、糖質ゼロ系の商品は緑が多いです。緑で検証もしたのですが、物足りなさを感じるという方も結構いたのです。

吾妻 消費者は緑で物足りない体験をしてしまっているから、青がいいだろうと。

山形氏 実は、最初私も緑がいいと思ったんです。分かりやすいですから。ただ今回の商品はおいしさも保っているので、調査の結果なども踏まえて緑ではなく青の方がいいという結論になりました。

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