グローバルで活躍できる“日本発”アーティストを生むために、大胆な組織改編を推し進めるユニバーサルミュージックの日本法人。本社の原宿移転を機に、正社員化をはじめとした働き方改革を敢行し、社員の意識を大きく変革させることにも成功した。「2029年までに売り上げを2倍にする」を目標に掲げる同社の勝算はどこにあるのか。同社社長兼最高経営責任者(CEO)の藤倉尚氏に聞いた。(聞き手は日経クロストレンド編集長、吾妻拓)
<前編「ユニバーサルミュージック藤倉社長 データ分析でデジタルヒット」はこちら>
編集長・吾妻 拓(以下、吾妻) 新型コロナウイルス感染症の流行でライブエンターテインメント業界は、大きなダメージを受けています。ユニバーサルミュージックでは、どんな影響がありましたか?
藤倉 尚氏(以下、藤倉氏) 現在も、握手会などの販促イベントやライブ興行が再開できる見通しは立っていない状況ですが、その多くをオンラインミーティングやライブストリーミングに切り替えて対応している最中です。一方、インターネットのCDショップや自社のオンラインショップは利用が増えています。なかでもストリーミング配信は堅調に成長していて、クラシックやキッズ向けなど、ステイホーム中の時間を充実させるプレイリストの人気が高まりました。
新型コロナウイルス感染症流行の影響下でも、新しいアーティストのヒットはどんどん生まれています。素晴らしいアーティストや楽曲を世の中に届けていくことに今後も変わりありませんが、音楽の拡散の仕方やヒットの生まれ方は激変しています。そのスピード感に対応する組織改革と、新しい才能を素早くキャッチできるサービスの展開をスタンバイしている最中です。
吾妻 藤倉さんは以前から「ビリー・アイリッシュのようなアーティストを日本から生みたい」と言っています。3月24日にはSexy Zoneがジャニーズ事務所とユニバーサルが設立した新レーベルへ移籍しましたが、彼らの海外展開を見据えてでしょうか?
藤倉氏 もともとSexy Zoneは海外への意欲も非常に高いのですが、これまでなかなかタイミングがつかめなかったようです。デビュー10年目のSexy Zoneをもっと日本で輝かせ、いかにグローバルにも伝えるか。グローバルがストリーミング中心になっているなかで、ジャニーズのアーティストはそこが限定的です。我々も、今後の策をどのように練るか考えていかなくてはなりません。
これまで同様、世界に挑戦し続けるアーティストの支援は継続していきます。それとは別に、ストリーミングを活用して、海外市場でも通用する新人を仕掛けたいと考えています。今のストリーミングでは、ビリー・アイリッシュやポスト・マローンなど若い世代の活躍が目立ちます。ユニバーサルグループが持つ楽曲分析ツールのデータと、アーティスト自身の魅力を掛け合わせることで、邦楽の新人が日本以外でブレークする可能性もあると思っています。
吾妻 海外で活躍できるアーティストは、何人くらい育てようと考えていますか?
藤倉氏 まずは1人です。最初に、海外で通用するであろうポテンシャルを持ったアーティストや作品を探すことが大切だと思っています。1963年の坂本九の「SUKIYAKI(上を向いて歩こう)」以降57年間、日本のアーティストがビルボードで1位になったことはありません。スペインや韓国のアーティストが1位を取っているのを見ると、そろそろ日本からもと思いますね。日本人のメジャーリーグ進出では複数の選手が様々な手法で挑戦した結果、大谷翔平やダルビッシュ有が生まれました。挑戦し続けることが大事だと思うんです。
吾妻 グローバルで輝けるアーティストを生むための、特別な組織づくりもしているのですか?
藤倉氏 目標も大きいので、組織面でもいくつか取り組んでいます。1つは(前編で登場した)玉木(一郎)が率いるデジタル戦略のセクションで、デジタルに楽曲を最適化する取り組みを行います。また、洋楽チームにもデータを解析したうえでマーケティング戦略を練る若いチームをつくりました。ここには海外で働いていたなど音楽会社以外でのキャリアを持つ社員など面白い人材を集めています。
邦楽でもレーベルの枠を超えてストリーミングに取り組み、デジタルや海外でいかにヒットを出すかに挑戦しています。さらにもう1つ、これまでRADWIMPSやPerfumeなどが海外へ行く際に現地でのプロモーションやキャンペーンを担当していたセクションも、日本のアーティストや楽曲を能動的に海外で売っていくセクションとして生まれ変わりました。
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