コンテンツスタジオのCHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)に魅力的なコンテンツづくりの秘訣を聞くインタビューの後編。物語を拡散させる戦略を聞いた前編に続き、「バズるコンテンツとは何か」といったインターネット広告の現状や将来について、同社のCCO(チーフコンテンツオフィサー)・栗林和明氏と、YouTuber/Artistのあさぎーにょ氏に話してもらった。(聞き手は日経クロストレンド編集長・吾妻拓)

栗林和明氏(左)
1987年生まれ。10万本を超える映像の分析を基にして、番組や空間、商品、レーベル、ボードゲームなどを企画。日本広告業協会(JAAA)クリエイター・オブ・ザ・イヤー最年少メダリスト。米誌Ad Age「40 under 40(世界で活躍する40歳以下の40人)」で、アジアから唯一の選出。

あさぎーにょ氏(右)
「へんてこポップ」という世界観を幅広い分野で表現し続ける次世代のYouTuber/Artist。音楽、ファッション、映像制作と幅広い分野で活躍中。常に新しいことに挑戦し続ける姿が若い世代から多くの支持を得ている。2016年に始めたYouTubeの公式チャンネルは、登録者数は70万を超えている。

前編(第13回)はこちら

 前回、映像業界や広告業界など「どんなものも、今までのやり方ではうまくいかなくなっている」と語った栗林和明氏。日経クロストレンドの読者の中には、ネットやSNS(交流サイト)が浸透した現代、自社の商品・サービスをうまく「広告」するにはどうしたらいいのか悩んでいる方も多いはず。栗林氏が今の広告には何が必要なのかに答えた。

バズらせるには人格が必要

編集長・吾妻 拓(以下、吾妻) 前回、「よりシェアされるコンテンツにするには驚きや衝撃のほかに、強い共感が必要」とうかがいました。それは広告の分野にも言えることですか?

栗林和明(以下、栗林氏) もちろんです。特に広告分野では、これまでさまざまな実験を通して、バズらせるには「人格」への共感が必要だという考えに行き着きました。

 例えば、超有名YouTuberのHIKAKINさんが猫を飼ったという動画がバズりましたが、「猫を飼った」ということ自体は特別な企画でも何でもないのに、いいねや再生数が非常に伸びる。これはHIKAKINさんの「人柄」や「人間味」に共感している人がたくさんいるからだと思っています。そして、内容が猫とくれば、話題になるのは必然なんです。

 有名YouTuberではなく企業が作った動画でも、その企業が発信したときはあまり再生回数が伸びなかったのに、とある個人がその動画をSNSで紹介したらすごいバズったという現象も多い。つまりネットやSNSが浸透した世界では、人格に共感することでコンテンツが拡散していくのです。

 私たちは「6秒商店」という6秒で欲しくなる架空の雑貨を紹介するTwitterアカウントを作っていたのですが、リツイートやいいねが伸びる商品とそうでない商品がありました。「6秒商店」というアカウント全体を人格として捉え、共感を得ていたならたとえ商品が違ってもリツイートの数に大きな差は生まれないはずです。しかし、そうではなかった。6秒商店の商品なら何でも好き!という共感をファンに定着させきれていないと感じました。

「人格に共感することでコンテンツが拡散していく」と栗林氏は話す
「人格に共感することでコンテンツが拡散していく」と栗林氏は話す

吾妻 ほとんどの企業では、個人(人格)を表に出してはいけないため、共感が得られないことが多い。結果、広告効果も限定的になってしまう。

栗林氏 強引にコンテンツを話題にしようとすると、面白いかどうかの勝負になる。するとネタを考えるだけで大変になるので継続できなくなります。あるいは過激な内容を追求するようになってしまう。

 でも人格を表に出すのは実は簡単なことなんです。「その人が本当にやりたくて作ったんだな」というのが伝わればいい。作った本人が面白いと思ってやっているかどうかが重要なのです。

吾妻 あさぎーにょさんが本当に思っていることをテーマに物語を作ったという今回の短編映画にも言えることですよね。あさぎーにょさんはどんなことを意識してコンテンツを作っているのでしょうか?

あさぎーにょ氏 確かに、反応がいいもの悪いものはあるので、再生数が多いものはコンテンツとして需要があるのだと理解してアップするようにしています。ただし、ウケるコンテンツを多く作るのではなく、あくまでもそのときの自分がやりたいことをやるようにしています。私のアップしている動画すべてに反応をしてくれるコアなファンの子もいますが、メイクやファッションなど、需要の多いコンテンツだけを目当てに見てくれる方も必ずいます。なので、新規で見に来てくれた方が、「この人は何をしている人なんだろう?」と私に興味を持ってくれたときに「私らしさ」に共感してもらえるようなコンテンツを作ることを意識しています。

「私らしさに共感してもらえるようなコンテンツを作ることを意識している」と話すあさぎーにょ氏
「私らしさに共感してもらえるようなコンテンツを作ることを意識している」と話すあさぎーにょ氏

吾妻 あさぎーにょさんがYouTubeに動画を投稿し始めたのは16年ですよね。最初から私らしさを出そうと意識して作っていたのですか?

あさぎーにょ氏 当初はSNS感覚でやっていました。自分のやりたいことと視聴者の方が求めていることを混ぜながら、「ワクワク」につなげていけるようになったのは最近ですね。

栗林氏 ワクワクは人格から発生するポジティブな人間味で、共感の元になるものの1つだと思っています。作り手がワクワクしているのは重要です。逆にネガティブな感情にも人間味はあって、「保育園落ちた、日本死ね」も感情が乗っていたからこそみんなが共感した。例えば、メディアが「保育園にこんな問題があります」という記事を書いても、ここまで盛り上がらなかったと思います。ポジティブな感情であれ、ネガティブな感情であれ、その人の気持ちがむき出しになって人間味があるからこそ共感を得やすいのでしょうね。

吾妻 実は日経クロストレンドの一部読者からも、「書いた記者の顔が見たい」というリクエストをいただくことが多い。これも人格を通じて記事を読みたいからなのかもしれないと今感じました。記者が本当に書きたいと思っているかが大事になりますね。

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