コンテンツスタジオのCHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)が2019年12月27日、YouTube上に短編動画をアップしたところ、400万回超の再生を記録した。「YouTubeでは長い動画は見られない」「映画のような物語のある動画はウケない」と言われているにもかかわらず、なぜこれほどの再生回数を生むことができたのか。同社CCO(チーフコンテンツオフィサー)の栗林和明氏と、今回製作した短編映画の主演を務めたYouTuber/Artistのあさぎーにょ氏に、その仕掛けや秘訣を聞いた。(聞き手は日経クロストレンド編集長、吾妻拓)
チョコレイト(東京・渋谷)は、映像を主軸に映画や漫画、ゲーム、雑貨など、あらゆるエンターテインメントを融合させるコンテンツスタジオだ。広告や映像作家、脚本家、音楽プロデューサーなど、さまざまなジャンルの企画プランナーやクリエイターが所属しており、総勢60人のスタッフから成っている。
同社のCCOでプランナーの栗林和明氏は、今回の短編動画をはじめ数多くのコンテンツ制作に携わり、広告のクリエイティブがどのように共感を得て、拡散されていくかについて研究を続けてきたという。今回の動画も大手飲料メーカーがスポンサーとして入っており、動画の最後にその会社の商品がさりげなく登場する。栗林氏がなぜ、長い動画は再生回数が上がらないとされるYouTubeで、このようなスポンサー付きの短編動画を公開するに至ったのか。その実験の狙いを聞いた。
YouTubeでいかに長時間×物語を受け入れてもらうか
編集長・吾妻 拓(以下、吾妻) 今回のプロジェクトはどのような経緯で始まったのでしょうか?
栗林和明氏(以下、栗林氏) チョコレイトは“世界一たのしみな会社”を目指している会社です。コンテンツ会社は縦割りになるケースが多く、アニメ部門ならアニメ、漫画部門なら漫画と、ジャンルによって作るものが決まっています。しかし、私たちはそれぞれの分野が持っている知恵を融合したら新しいものが生まれるのではないかという考えを持っており、映像やYouTubeの専門家、漫画編集者などさまざまな人が集まって新しいものを制作しています。
そこで課題となっていたのが、ネット上でただ話題になって終わるのではなく、コンテンツに深みを出すこと。見た人の心に残るような深みのあるコンテンツを出すには物語が必要だということは分かっていたものの、純粋に物語のある作品はネットで拡散するケースは少ない。ライトに楽しめるものが広がっていく傾向があります。つまり、今のメディアのアルゴリズムでは物語は流通しないということなのです。
吾妻 その理由は何なのでしょう?
栗林氏 物語は文脈を理解しなければならないため、長時間腰を据えて見る必要があります。長尺のコンテンツは拘束時間が長いために途中で離脱しやすく、YouTubeではそうそう見てくれない。また、YouTubeは、大食いや人気曲を歌ってみたなどの動画が見られやすいというアルゴリズムがあるので、普通の物語は受け入れられにくいのです。
それをどうクリアするか考えたときに、あさぎーにょさんなら、自分のチャンネルに発信力があり、一定数のファンが存在するため、そのファンから火が付くのではないかという結論に達しました。ただし、今まで彼女がアップしていたコンテンツとかけ離れたものが上がってしまうと、ファンは違和感を抱いてしまうので、あさぎーにょさんらしさと物語を共存させつつも、いかに自然にシームレスなコンテンツを作るかが今回のチャレンジでしたね。
吾妻 なるほど、それがきっかけで年末にアップしたわけですね。このプロジェクトはそのもくろみ通りに成功しましたか?
栗林氏 当初は100万再生もいけば大成功と思っていたのですが、予想以上の反響があって驚いています。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー