2008年にオープンするや、僅か1年5カ月でミシュラン史上最速の三つ星に輝いた「HAJIME」(大阪市西区)。オーナーシェフの米田肇氏は、ミリ単位、グラム単位で緻密に計算された独創的な一皿を生み出す“料理界のイノベーター”といえる存在だ。その発想の原点や、料理とテクノロジーが融合する未来について、とことん話を聞いた。(聞き手は日経クロストレンド編集長、吾妻 拓)

「HAJIME」のオーナーシェフ、米田肇氏
「HAJIME」のオーナーシェフ、米田肇氏

 米田肇氏は、コンピューター関連企業のエンジニアから料理の世界に入った異色の経歴を持つ。適切な調理法でおいしさを引き出した100種類以上の野菜を使い、地球の循環を表現した代表作「地球」のように、これまでの料理界の常識にとらわれないオリジナリティーあふれる料理の数々で、「世界の舌」をうならせている。

 そんな米田氏の規格外の発想が引き出されたのが、2019年9月に開催された外食産業×ITの未来を考えるイベント「FOODIT TOKYO 2019」。第一線で活躍するシェフとして唯一参加し、フードテック事情に精通するスクラムベンチャーズの外村仁氏が担当したセッション「CookTech最新事情~『調理×テクノロジー』はキッチンの現場をどう変える?」に登壇した。その外村氏との対談の中で、米田氏はオリジナリティーの源泉をこう語った。

 「重要なことは、自分がどんな料理を作りたいのか、何をしたいのか。そのイメージを最初に固めること。その到達点に対して何が足りないのかを考えながら、料理を組み立てていく」

 これに対して外村氏は、「その発想はシリコンバレーで成功している起業家と同じ発想で、彼らも明確なビジョンを持っている。日本企業のように、今ある技術をどうにか使おうとする積み上げ式の発想からはイノベーションは生まれない。これは伝統や修練に重きを置きすぎている料理界でもいえる」と指摘した。

FOODIT TOKYOでの対談の様子
FOODIT TOKYOでの対談の様子

 自分が作りたい料理を実現するために、例えば米田氏は食材の「火入れ」方法を一から見直した。「肉を調理する際、調理学校では180度のオーブンで焼くなどと教わるが、本当にそれがベストなのか。私の場合は、表面はこう、内側はこう、表面から1ミリメートル下はこうと、理想の状態を突き詰めて考える。最終的には今、10種類程度の火入れをしています」(米田氏)。その作業は冷蔵庫の中、0度の状態で肉のどの面を上にして置くかといったところから始まっているという。「自分の理想を探求することで、ちょっと普通ではない火入れの方法が分かった」と米田氏は笑う。

 このエピソードを聞くだけでも、米田氏の料理に対する執念のほどが分かるだろう。そんな米田氏は、調理場へのロボットの導入やAI(人工知能)、画像認識といったテクノロジーと料理が重なり合う将来にも期待を寄せる。さらに今後の挑戦として、下記の5つのキーワードを挙げた。

① レストランガストロノミー(レストラン空間)
② インスタレーションガストロノミー(空間芸術)
③ スペースガストロノミー(宇宙空間)
④ シンギュラリティガストロノミー(デジタル世界)
⑤ メディカルガストロノミー(医療分野)

 これらは何を意味するのか。「最もやりたいことは、宇宙空間で料理を振る舞うこと」と米田氏が話したとき、外村氏との対談は時間切れを迎えた・・・・・・。これを引き継いで実現したのが、今回のインタビューだ。5つのガストロノミーの具体的な中身に加え、米田氏の独創的な料理の原点、フードテックの潮流に対する米田氏の向き合い方について、全3回にわたってお届けする。

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