音楽配信サービス大手のSpotify(スポティファイ)は音楽業界に様々なデータを提供し、プロモーションなどに活用されている。日本で開始したチケットサービスとの提携にもそのデータが大きく関係していると言う。日本法人の玉木一郎社長にその目的を聞いた。(聞き手は日経クロストレンド編集長、吾妻拓)

スポティファイジャパンの玉木一郎社長
スポティファイジャパンの玉木一郎社長

 スポティファイジャパンは、2019年7月30日、チケットサービス「イープラス」と提携し、Spotifyに表示されたコンサート情報からイープラスのサイトに移動してチケット購入などができるようになった(関連リンク:「Spotifyとイープラスが提携 高額チケット転売を防げるか」)。

吾妻拓(以下、吾妻) イープラスと提携して、Spotifyのサービス画面からもライブチケットが探せるようになりました。この提携の狙いは何ですか。

玉木一郎社長(以下、玉木) イープラスとの提携には、アーティストとファンとのつながりをつくることと、データを開示することで人々の期待に応えるという、2つの軸があります。

 例えば自分の聴取履歴に基づいたお薦めコンサートが表示されます。表示されるのは、誰もが知っているような大物アーティストの情報だけに限りません。先に述べた、ストリーミングで初めて知ったようなアーティストの情報も表示され、そこからチケット購入ページに移動できます。

Spotifyに、ユーザーの聴取履歴からお薦めと判断したコンサート情報が表示され、そこからイープラスのサイトに移動してチケットを購入できる
Spotifyに、ユーザーの聴取履歴からお薦めと判断したコンサート情報が表示され、そこからイープラスのサイトに移動してチケットを購入できる

 こうした、それほど有名でないアーティストのコンサート情報をチェックするのはなかなか難しいでしょう。気がついたらもうコンサートが終わっていた、なんてこともあります。そうしたロスを無くし、チケットがすぐ買えれば、Spotify上での出合いがライブ体験につながります。そしてライブを体験した人は、そのアーティストのファンになる確率が高いんです。これがアーティストとファンにとって大事な関係性ではないか、アーティストが生計を立てるうえでも重要ではないか、そう考えています。Spotifyで音楽と出合った人を本当のファンにするという、非常に大きな狙いがあるわけです。

 ストリーミングの価値について、CD販売の単価と比べてストリーミングはどうなんだとよく言われます。しかしストリーミングの価値はそこではなく、こうした提携を可能にするデータそのものにあります。データそのものが、アーティストがどんなキャリアを築いていくか、どうマネタイズしていくかといったことに、大きく貢献しているんです。

確度の高い予測が立てられる

吾妻 データの収集や分析をアーティストごとに行ったり、プロモーションのアドバイスを行ったりとなると、かなり人手がかかるのではないですか?

玉木 (アーティスト向けの「Spotify for Artists」の画面を見せながら)そうでもありません。これはアーティストが見ている画面ですが、リスナー数やストリーム数の推移だけでなく、どのプレイリストに入っているか、ライブラリーに保存して聴いている人がどれだけいるかなど、細かいことまで分かります。そこから、リスナーが自分の楽曲にどんな経路で触れて気に入ってくれたのかが見えてきます。もちろん年齢、性別、国や都市も分かるし、自分の楽曲を聴いているリスナーが他にどんな曲を好んでいるかという関連性も分かります。こうした情報が何も手を加えられていない生のデータとして分かります。

吾妻 音楽レーベルはそうしたデータを基に、次のプロモーションをどうするかといった戦略が立てられますね。次にどんな曲を作るべきかも分かるというわけですね。

玉木 そうです。新しく作った曲をどんなプレイリストに入れたいか、といった考え方もできます。こういう曲なら、こんなプレイリストに入ってきて聴かれるのではないかと予測して、プロモーションを立てることができます。結果を保証することはできませんが、かなり確度の高い予測を立てられます。

吾妻 音楽レーベルにとって有益なデータを提供しているということですね。そうなると、あとはレーベルが、データをどう活用するかにかかっているということですか。

玉木 そうです。ストリーミング時代の音楽レーベルの役割は、データを中心に据えてマーケティングやプロモーションの戦略を立て、アーティストのキャリアを考えていくことではないかと思います。欧米はすでにそう変化しているし、日本でも次第に変化していくでしょう。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>
この記事をいいね!する