音楽をインターネットを通じたストリーミングで聴く音楽配信サービスの利用者が増え、ストリーミング発のヒット曲も生まれている。スポティファイジャパンの玉木一郎社長に、ストリーミングのデータが音楽のマーケティングに及ぼす影響を聞いた。(聞き手は日経クロストレンド編集長、吾妻拓)

スポティファイジャパンの玉木一郎社長。同社の壁には来訪アーティストのサインが並ぶ
スポティファイジャパンの玉木一郎社長。同社の壁には来訪アーティストのサインが並ぶ

 音楽をインターネットを通じたストリーミングで聴く、音楽配信サービスの利用者が増えている。日本レコード協会の統計によると、2018年の日本の音楽コンテンツ市場は、CDなどオーディオレコードの生産実績は1576億円で前年比9%減少。それに対して音楽配信サービスの売り上げは645億円で前年比12.5%増だ。近年ではストリーミング発のヒット曲が多く生まれている。

 スウェーデンのSpotify(スポティファイ)は、定額制配信と広告による無料配信の2種類の音楽配信サービスを行っている。日本でサービスを提供しているスポティファイジャパンの玉木一郎社長に話を聞いた。

吾妻拓(以下、吾妻) 音楽ストリーミングによって音楽業界や、音楽のマーケティングにどんな変化が起きていますか。

玉木一郎社長(以下、玉木) これまで音楽業界では、ヒットを作り出すことが中心になっていました。それがストリーミングによって大きく変わってきたと認識しています。

 これまで音楽業界のヒットの法則は資本の論理でした。どうやったら確実に売れるのかを追求する物語とも言えます。初期から綿密なタイアップを計画し、CDを発売するときは満を持して大量の資本を投下しプロモーションを行い、全国に流通させてきました。そして、その初期段階で“売れた”という情報が人に伝わり、雪だるま式に売れていく。“売れた”が“売れる”につながっていく。これが音楽業界の勝利の方程式と言っても過言ではなかったんです。

 ここ10年ほどでそれが大きく変わってきました。それは音楽と音楽を聴くリスナーの関わり方がプッシュ型からプル型に変化し、リスナー側が主役に躍り出てきたからです。リスナー側から主体的に関わっていくアーティストが登場し、売り手側の売りたいものが売れるという状況が揺らいできたんです。

吾妻 リスナー側の意識が大きく変わってきたのに、売り手側のスタイルが変わっていない。音楽レーベルがCD中心だった時代の売り方を続けているということですか?

玉木 そうです。これに対する処方箋として海外で起こったのが、音楽ストリーミングです。音楽ストリーミングは、音楽を探すリスナーにとって“出合いの場”になります。場が広いほど、好みの音楽に出合える確率が上がります。

 Spotifyでは、まずプレイリストという形で音楽との出合いの場を広げてきました。アーティストを軸に音楽に触れるだけではなく、時間帯や場面、気分などを軸にして、新しい音楽に触れて知るきっかけとなります。

 もう一つは音楽をレコメンド(お薦め)する機能です。これはデータを基に、好みそうな音楽を推測してお薦めするものです。昔のレコード屋やジャズ喫茶の店主が「ちょっとコレを聴いてみなよ」と教えてくれるような、そんな提案をします。

Spotifyは様々な機器で利用できる。アルバムや曲単位だけでなく、色々な曲を組み合わせたプレイリストでも聴ける。ユーザーの好みに合わせたプレイリストを作成して教えてくれる
Spotifyは様々な機器で利用できる。アルバムや曲単位だけでなく、色々な曲を組み合わせたプレイリストでも聴ける。ユーザーの好みに合わせたプレイリストを作成して教えてくれる

 こうした出合いや提案が斬新で自分に合っていればいるほど、新しい音楽に出合う楽しさがあります。そうした楽しさがあってこそ、音楽は聴かれるようになるんです。

 そして大勢の人が音楽を聴き始めると、そのデータは音楽レーベルなどでプロモーションに携わっている人たちにとって有用なデータになります。例えば年齢、性別、住んでいる国や都市など、その音楽がどんな人に届いているのかという、これまで分からなかった情報がリアルタイムで手に入るようになります。

吾妻 その情報を基にマーケティングができますね?

玉木 そうです。どんな人に向けてどんなプロモーションをすればいいのかを判断する材料になります。以前の音楽業界では、ファン層が分かっているアイドルなどを除けばほぼ不可能だったことが、ストリーミングで可能になったんです。

 これはシンプルに言えば“データによって情報武装する”ということです。音楽業界にとってストリーミングの最大の価値とは、貴重なデータを入手できるようになったことだと思います。

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