顧客が本当に求めているものを知る

 本麒麟は18年3月に発売されると、3カ月で1億本に届く垂直立ち上げに成功し、第3のビールで大ヒットとなった。

 ヒットの理由を山形氏はシンプルに“おいしさ”だと語る。

 「それまで同様の商品を10品以上発売していたが、『のどごし<生>』以外は売れなかった。その要因を分析し、我々がビールと新ジャンルは別のものという考え方で製品を作っているのではないか、お客さんは新ジャンルの中から選んでいるわけではなく、ビールも含めたものの中から、ただおいしいものを選んでいるのではないかと考えた」(山形氏)

 国内市場は大手ビール会社4社でほぼ寡占している状態で、競合他社がある製品を出すと、その対抗商品を出すといった状態が続いていた。それは顧客が本当に求めているものではないのではと考えた。顧客を理解するためにスーパーの売り場に立って観察したという。

 「売り場に立って何時間も観察した。どういう人がどういう気持ちで製品を手に取り、買っているのかを知りたかった」(山形氏)

 山形氏は迷ったら店頭や駅で人を観察したり、テレビを見たりして、感覚的にどうしたら売れるかを考えるという。顧客からどういう学びがあるのだろうか。

 「例えば、お客様はスーパーでビールを真っ先に買わない。何か食品を買ってからビールを買う。そこで肉と一緒に買うのか、野菜と一緒に買うのかなどを観察した」(山形氏)

 買う人の気持ちを想像しながら観察すると、例えば主婦が嫌々買う場面も見かける。そういう人は新製品は買わずに、飲み慣れたものしか買わないという。そうした顧客の買い方を調べ、開発に生かした。

山形氏が登壇したセミナー「本麒麟が大ヒット! キリンを変えた聖域なき直球マーケティング」は大盛況だった
山形氏が登壇したセミナー「本麒麟が大ヒット! キリンを変えた聖域なき直球マーケティング」は大盛況だった

ヒットメーカーになりたいわけではない

 本麒麟は大ヒットした。2年目となる19年上半期は勢いが加速し、販売実績は前年比約8割増と大きく伸びている。だが、「ただのヒット商品」を作りたいわけではなかったという。

 「ヒットメーカーになりたいわけではなく、経営やビジネスの感覚でやっている。経営を考えると、2年目以降も販売が伸び続ける製品を作ろう、となる。ヒットを狙うと、そのときのトレンドを追ってしまいがちだ。しかし10年持つものを作ろうと思うとトレンドは追わなくなる。どこかの商品の物まねなどはせずに、長期的なプランや視点で作っている」(山形氏)

 2年目になると、すでに製品を知っている人が増え、買う理由が変わってくる。顧客にとって何が必要かを常に考え、ドイツ産ホップを使用するなどおいしさを突き詰めたリニューアルをして、CMも製品を認知してもらうためのものから大きく変えた。

 「1年目のCMで伝わるものだけでいいのかと考えた。業界自体を盛り上げたいと思い、製品だけでなく、それを楽しむシチュエーションやお酒の役割も含めてアピールすることにした」(山形氏)

 山形氏は広告会議にはほとんど顔を出さず、主要な部分だけ押さえて、あとは本職の人に任せている。山形氏にとって、マーケティングとは経営なのだという。

 「マーケティングは経営そのものだと思っている。経営とは、お客様に向けては価値を作ることであり、社員に向けては幸せを作ること。マーケティングとは、そうした経営のエンジンになるものだ」(山形氏)

 2年目も大きく伸びる製品は、ロングセラーになることが多い。経営の視点を持ったマーケティングで、本麒麟は定番ブランドになっていきそうだ。

(写真/稲垣純也)