その中で目を引いたのが、AnyTechの水質判定AI「DeepLiquid」でした。リリースから4カ月で売り上げ1億円という収益性や水処理監視員を10人から2人に削減した実績面だけでなく、その応用範囲の広さが興味深いです。静止画ではなく動画を用いて、水面の揺らぎや泡の伸縮挙動に合わせた解析モジュールを持つリアルタイム分析アルゴリズムは、単純な水質判定のみならず、飲食チェーンにおける唐揚げの揚がり具合の見極めや、化学メーカーの微生物の分析、飲食店の食品鮮度の検出などにも応用可能といい、その経済的価値は高く、今後のビジネス活用の広がりが楽しみな技術でした。

楽天市場の商品タイトル翻訳機能も

■石角友愛・パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー

 優秀賞の楽天は、ファンコミュニティを活用したコーパスデータ作りが面白く、最新のSequence-to-Sequenceモデルで字幕自動生成を行い、多展開が可能な極めて応用性が高いAI(人工知能)開発だと思いました。多言語に翻訳されることで、動画配信サービスで2.5倍の時間を視聴に費やすことが分かり、視聴者のエンゲージメントを高めるという結果につながった点も評価できます。広告ビジネスとして5%の増益につなげたことで、翻訳作業の省人化やコンテンツ投入のリードタイム削減だけではなく、会社の成長戦略としての大きな収益モデルになり得ます。楽天市場への商品タイトルのマルチモーダル翻訳などに適応されていることなどから将来性も期待でき、単なるPoC(概念実証)ではなくビジネスの結果を出し、次に生かす応用性の高いAIとして良い事例です。

 他にもAnyTechの水質判定のAIなど、グローバル市場かつ横断的な業界に導入可能なAI開発で発展性が高いと感じました。 大賞、優秀賞、そして特別賞をとった全てのチームがどれも具体的な課題解決のためにAIを導入し、ビジネスとして結果を出しているため今後もこれを機会に大きな発展をしてほしいと思います。おめでとうございます。

■進藤智則・日経Robotics 編集長

 応募プロジェクトでは基本的に社内利用の事例が多かったが、異色だったのは大賞のキユーピーの事例。自社工場での利用にとどまらず、他社への外販にも既に乗り出しています。AIスタートアップであれば技術を外販するのは当然ですが、キユーピーの本業は食品製造。AIが専業ではないユーザー企業が、自社内での成果を基にAI技術を提供する「ベンダー」側に回る動きは今、キユーピーに限らず他業界でも起きています。例えば、自動車部品メーカーの武蔵精密工業も自社内でのディープラーニング活用実績を基に、同技術の外販に乗り出しています。古くは、情報システム(IT)の世界でも金融や鉄鋼といったITのユーザー企業が自社のノウハウを基にシステム構築事業に乗り出していく動きがありました。ディープラーニング技術についても、いずれは「ユーザー発」の大きなベンダーが出現するのかもしれないと実感させられました。

 ロボット技術との関連では、優秀賞の荏原環境プラントのようにディープラーニングでの認識結果を実際の物理的なシステムのアクチュエーションにまで結び付けている事例は珍しい。今後、ディープラーニング技術とロボット技術のさらなる融合事例に期待したいです。

■吾妻拓・日経クロストレンド編集長

 原材料の異常検知、プラントの運転自動化、動画による水質判定や多言語翻訳、子供の写真分類……。ディープラーニング活用の多様な可能性が感じられるアワードとなりました。

 マーケティング分野では、プラグの「パッケージデザインの好意度スコアを予測するAIサービス」が特別賞を受賞しました。同社は、商品のパッケージデザインの好意度を数分、数万円で予測できるモデルをディープラーニングで開発しました。

 費用面から事前調査できなかった中小メーカーでもデザイン評価が可能になり、市場を大きく広げる取り組みとして評価できます。学習データには、5年間で蓄積した4115商品、延べ411万5000人の消費者調査データを活用。好意度にはブランド認知度も影響することを考慮し、Yahoo! JAPANの検索数も加えた点がユニークです。

 社内でAIを勉強して開発したとのことで、多くの企業の励みとなるでしょう。消費者調査も継続しており、データ増量によるモデル改善も続けています。今後は東京大学大学院情報理工学系研究科の山崎俊彦准教授との共同開発で、デザインの好意度評価だけでなく、デザインのどこをブラッシュアップすべきかが分かるようにするとのこと。さらなる発展が楽しみです。