表面だけを捉えると誤解を生みがちな「心理的安全性」の本質とは? 「日経クロストレンドEXPO 2019」の中で10月9日に開催されるセッション「禅から学ぶ最強のチーム作り〜『心理的安全性』を高める方法」(16:30~17:10)に登壇するZENTechチーフサイエンティスト・石井遼介氏が解説する。

石井 遼介(いしいりょうすけ)氏
ZENTech取締役チーフサイエンティスト・一般社団法人 日本認知科学研究所理事
‬一般社団法人 日本認知科学研究所理事。神戸市出身、東京大学工学部卒。シンガポール国立大経営学修士(MBA)。学生時代から数えて3社を創業。ZENTechでは心理的安全性や行動分析の研究、サーベイ開発、統計分析を行うとともに、研修講座の設計・開発も担当。

 心理的安全性という言葉は、表面だけを捉えると誤解を生みがちです。心理的安全なチームというのは、外交的であることでも、アットホームな職場のことでも、単に結束したチームのことでも、すぐ妥協する「ヌルい」職場のことでもありません。

 例えば、「結束したチーム」は異論を唱えることが難しいチームとも言えます。心理的に安全なチームはむしろ、チームメンバー大勢の意見が一致しているように見えるときでさえ、「それは違うと思います」と容易に言えるチームのことなのです。 

 「日経クロストレンドEXPO 2019」の中で10月9日16時半から開催されるセッション「禅から学ぶ最強のチーム作り〜『心理的安全性』を高める方法」では、マネジャーやリーダーがどうすれば心理的に安全なチームを作ることができるのかをご紹介したいと思います(イベントへの参加登録はこちら。リンク先のページで下にスクロールすると、10月9日の一番下に当該セッションがあります)。

 経営学の1分野である組織論では3つの「コンフリクト(衝突)」という概念を定義しています。

1.人間関係のコンフリクト
2.タスクのコンフリクト
3.プロセスのコンフリクト

 この3つです。

 1の人間関係はその名の通り人の好き嫌い、2のタスクは同じ問題や事象について意見が衝突するということ、3のプロセスのコンフリクトとは「それはウチの仕事ではありません」とたらい回しになってしまうような状況を言います。組織論ではこのどれもが業績に悪影響を与えると結論づけていますが、実は「心理的安全性が担保されている状況下では、タスクのコンフリクトだけは業績にプラスの影響がある」という研究結果があります。心理的安全性がない状況下では、意見の対立はたやすく人間関係の対立になってしまうのです。

 もう一つ、心理的に安全な職場は「ぬるま湯」や「危機感の足りない職場」ではないか、という誤解もよくあります。それは、仕事の「基準」が低いときにそうなります。基準とは妥協点。妥協するラインのことです。目標を達成できなかったり、プロジェクトがうまくいかなかったりしたとき、「まあいいや」と妥協するような風土であれば、それは基準の低い職場だと言えるでしょう。

 基準が低い職場でかつ心理的安全性も低い職場の場合、メンバーは互いに無関心で、ただ衝突を避けるようになります(図の左下)。このカテゴリーにいると、お互いに衝突を避けようとするので、一見問題がなく心理的に安全な職場であるかのように思えます。しかし、進めている仕事に「実は大きなリスクがあるのではないか」と気づいた場合でも、職場の雰囲気を悪くしたくないからと、いちいち声を上げたりしません。結果、取り返しのつかないトラブルになるまで放置されてしまったりします。

 一方で、基準が低いまま、心理的安全性だけは高かったらどうでしょうか。これは確かに「コンフォートゾーン」、いわゆる「ヌルい職場」というイメージと合致するかもしれません(上図左上)。一方で、仕事に対する「基準」が高いときは、どうでしょうか。

 心理的安全性が低くて、基準が高いとき(図 右下)。これは、お互いに助け合ったり、アイデアを出し合ったりというチームワークがないままハードなノルマに追い立てられるため不安度が高く、使い潰されていくような職場だということになります。

 最後に、基準が高く、かつ心理的安全性も高いとき、チームの学習が促進され、高いパフォーマンスが得られることとなります。

 ここで言う、基準が高い(ハイスタンダード)、とはどういうことでしょうか。基準が高いということは、いたずらに高い目標を掲げることではありません。ビジネスでは、さまざまな外部要因・内部要因で、目標達成が難しいことがあります。そうして、妥協するしかない、その妥協するポイントが高いことをハイスタンダードであると言います。

 部下やメンバー、チームが目標を達成しないとき、単に厳しく叱るという姿勢は、目標を達成するうえで役に立っているとは言えません。目標にそれでも近づけるように、例えばプロセスを聞き、改善すべきポイントについて考え、必要であれば同行や指導をし、目標に近づくサポートができることが、一見「厳しく管理している」上司よりも、高い基準を持っていると言えるでしょう。