心理的安全性の鍵は「リーダーの心理的柔軟性」

 はじめに結論から記載し、その後補足をします。

 何が正解か分からない時代において、仕事を速くミスなくこなせばいいという「これまでのチーム」は機能しなくなってきており、これからのチームは正解がないものに取り組み、現実のフィードバックから学ぶ「学習するチーム」であることが要求されます。このチームの学習を促進するのが、チームの心理的安全性です。チームの心理的安全性は、特にリーダーの「心理的柔軟性」によって醸成されます。

 では、どのようにチームの心理的安全性を醸成すればよいのでしょうか。私たちのデータが示しているのは、チームの一人ひとりが「心理的に柔軟」であるとき、チームは心理的に安全ということです。

 加えて、特にチームリーダーの心理的柔軟性が高いとき、チームの学習が促進されることが分かっています。

 心理的柔軟性という新しい概念が出てきましたので、説明を加えたいと思います。心理的安全性をはじめ、チームの心理的な状況というのは、チームの「歴史」を背負ったものです。つまり、「数年前あのトラブルがあったとき、上司はああいう対応をした、だから」とか、「先週の会議で新人が意見を言った。そのとき、リーダーはもとより参加者のみんなは『新人がよく知らずに何を言っているんだ』とばかりに冷ややかだった」とか。そういった、過去の一つひとつの行動や、それら行動への反応が積み重なって、発言リスクを取ることのできる職場、そうではない職場が出来上がっていきます。

 だから、一つひとつの職場に合わせて、そして一人ひとりのメンバーの状況に合わせて、柔軟に対応をする必要があります。この柔軟な対応がとれることが心理的柔軟性です。行動分析を基礎原理とする、心理的柔軟性の科学であり、第3世代の認知行動療法と呼ばれる、ACT (Acceptance and Commitment Therapy)では、「心理的柔軟性モデル」を次のように定義しています。「現実に対してオープン」で、「マインドフルに集中」しており、「行動にエンゲージしている」状態であると。

「現実に対してオープンである」とは、思考や感情と現実を切り分けること。「マインドフルに集中している」とは、心ここにあらずの状態ではないということ。座禅・マインドフルネスが、このパートの訓練になります。「行動にエンゲージしている」とは、メンバー個々人に合った役割をアサインできているときと言えます。

正しいことより、役立つことをしよう

 このような心理的柔軟性の高いリーダーは「正しいことではなく、役に立つことができる」リーダーです。売り上げが未達の営業スタッフに、「売り上げが未達である」と指摘することは正しいことかもしれませんが、売り上げを達成させるために役に立つ行動ではありません。

 プライベートでつらいことがあり、パフォーマンスが一時的に下がっている部下に「仕事は仕事なのだから、プライベートがどうであれ、給料分働くべきだ」と言うのは正論かもしれませんが、その部下がパフォーマンスを取り戻すうえで役に立つ行動ではありません。心理的柔軟性が高いリーダーは、部下や関わる人の望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らす、さまざまなアプローチがとれる存在です。

 前述の通り、一つひとつの行動の集積が、チームメンバーが感じられる「心理的安全性」になるわけですから、リーダーがどう自分自身の行動を変え、メンバーの行動をどのように導いていくかが重要です。

心理的安全性をつくる「4つの行動」

 私たちの研究では、心理的安全な職場では「ネガティブなことであっても率直に話す」「困ったときに助け合う」「挑戦し、失敗も含めて受け入れる」「新しい視点や才能・個性を歓迎する」という、4つのカテゴリーの行動特性が高いことが分かっています。

 心理的柔軟性の高いリーダーは職場やメンバーごとに話をしやすい雰囲気を醸成し、助け合うカルチャーをつくり、挑戦し、失敗からも学び、新しい才能を歓迎することを通じて、心理的に安全な職場をつくります。

 どの職場でも通じる「正解」はありませんが、心理的柔軟性を手に入れるとともに、下記のような観点に気を付けることが重要です。

・発言を歓迎する
・発言の内容を評価するのではなく、まずは発言したことについて感謝を述べる
・リーダーが間違ったときには間違いを認め、そこからの学びをメンバーと共有する
・助けが必要かどうか、困っていることはないか、聞いて回る
・相談されたら、手を差し伸べる
・挑戦を歓迎し、挑戦したことに対してまずは褒める
・失敗したときも、チームとして何が学びになるかを振り返る

 この心理的安全性をつくるための、具体的なケーススタディーを日経 クロストレンドEXPOの講演では紹介したいと思います。

 例えば、

・現場の声を拾い上げて新規事業のネタを発見し、組織の縦割りを超えた協働でイノベーションを実現した方法

・新人や若い営業マンが本音を言わず、不平・不満を口にせず、けれど気づいたら職場を去っているようなチームが、どのように退職が止まり、リーダーに相談が来るようになったのか

・表面上仲が良く、トラブルや衝突はないが、他責思考で、主体性・助け合いが感じられない職場で、いち平社員が上司をどうマネジメントし、話し合える職場をつくったのか

・問題があったり、分からなかったりしたとしても、部下が相談に来ない。部下一人では対応できないトラブルになってはじめて、自分のところに上がってくる。そのような職場が、いかに素早く、問題が小さなうちに報告が上がり、芽を摘めるようになったのか

 経営の実践知と座禅・マインドフルネスを、現場の営業マンからたたき上げ、店長、人事部長、企業再生を経験し、上場企業の社長も務めたのち出家した禅僧の島津清彦と、行動分析の研究者である石井遼介が噛み砕いてお伝えします。

石井遼介氏が10月9日、日経クロストレンドEXPO 2019に登壇!
石井遼介氏の講演は公式サイトからお早めにお申し込みください(事前登録無料)。元上場企業社長の島津清彦氏と共にご登壇いただき、心理的安全性についてより深くお伝えいただく予定です。

【日経クロストレンドEXPO 2019開催概要】
日時:2019年10月9日(水)~11日(金) 午前10時~午後5時30分(開場 午前9時30分)
会場:東京ビッグサイト 西ホール
入場料:登録無料(事前登録で3000円の入場料が無料になります)
お申し込みは公式サイトから