長らく「患者に対して医療を行う場」であった病院が進化するには医療と患者、学会と研究者のコミュニケーションを活性化する必要性がある。そう説くのは、「病院マーケティングサミットJAPAN」の代表理事を務めるヴァイタリー代表取締役の竹田陽介氏だ。医療・病院はマーケティングで進化する――、「クロスヘルス EXPO 2019」の登壇に先立ち、現在の医療の問題点と次世代病院モデルについて聞いた。
ヴァイタリー代表取締役・循環器内科医
――なぜ医療マーケティングに取り組むようになったのですか?
竹田陽介氏(以下、竹田) 現在の医学・医療の問題点の1つは、体や健康、病気のことを積極的に「話せていない」というコミュニケーション不足にあると考えています。例えば、心筋梗塞の死亡率は緊急医療の発達で改善され、適切なタイミングで適切な治療を受ければ2%程度にまで下がりました。重要なのは適切なタイミングで適切な医療を受けることですが、心筋梗塞は50~60才の働き盛りの男性がなることが多く、症状が出ていても病院に行くのを我慢してしまい、手遅れになることが多いんです。
我慢してしまう原因がコミュニケーション不足なんです。家庭で話をしているうちに家族がお父さんの状態に気づく、会社で接する上司や同僚が病院に行くように勧める、といったコミュニケーションがあれば、手遅れにならずに済むケースが多いのではないかと思います。つまり病院が存在するだけではダメで、むしろ病院の外での医学についてのコミュニケーションを活性化する必要があります。だからヴァイタリー(Vitaly)のコンセプトは「話そう! 医学」にしました。
また、再生医療などの先端医療の中には、学会の一部の医療関係者だけが知っていて、熱心な医療研究者やそれを必要としている人へ届いていないものがたくさんあります。そうしたことを周知して患者と病院のマッチングを進める、あるいはとある小さな学会でしか知られていないようなユニークな研究成果を周知して他分野の研究者が役立てられるようにする、そうしたプロモーションも不足しています。
こうしたコミュニケ―ション不足、プロモーション不足により情報共有ができていないことはとてももったいない。この問題解決に持続可能な形で取り組むために、マーケティングという言葉を使い、本当の意味でみんなで医療をオープンに考えていきたいと考えています。
マーケティングという言葉を聞くと、販売促進やプロモーション活動を思い浮かべる人も多いと思いますが、その本質は「価値の交換」です。患者や研究者に「医療」という価値を提供したいのです。加えて、医療以外の他分野とのコミュニケ―ションも活性化します。医者は病院以外のことをあまり知りません。組織のありかたや仕事のやり方など、一流企業から学ぶことはたくさんあるはずです。
――クロスヘルスEXPOのテーマである次世代病院モデルとは何ですか?
竹田 今の病院には、医療のアクティビティしかありません。患者しか病院に行く必然性がなく、それもコミュニケーションのロスにつながっている。日常の中で医療や病院にちょっと接点があるだけでも、情報共有が進み健康づくりは変わってきます。
病院という場にはもっと可能性があるはずです。次世代病院モデルと呼んでますが、「病気じゃなくても行きたくなる病院」をどう作るか、「モテる病院」をどう作るかといった角度から、もっと病院を面白くすることを考えていきたい。それができたら医療は全く変わってくるでしょう。
クロスヘルス EXPOのパネルディスカッションではいわゆる非医療系のマーケティングの専門家の方々にさまざまな意見を聞いてみたいです。講演タイトルは病院関係者向けに見えますが、パネリストの中に医者は1人だけです。病院に対する既成概念がない方々の大胆な意見が楽しみです。医療関係者はもちろん、医療と関係ない人もぜひ足を運んでください。病院という場の見方が変わるはずです。
「医療の外から次世代病院モデルを考える ― 病院という“場”の新たな可能性」(10/09 15:40~17:00)
「クロスヘルス EXPO 2019」では、竹田氏がモデレーターとなり、非医療系のマーケターとともに、医療界の既成概念にとらわれない新しい病院のあり方を模索する。資生堂などでマーケティング組織を構築・指揮した音部大輔氏やオイシックス(現オイシックス・ラ・大地)を大きく成長させた奥谷孝司氏らがパネリストとして登壇する。
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(写真/湯浅英夫)