日本経済復活の起爆剤として期待されるオープンイノベーション。2019年10月9~11日に開催される「日経クロストレンド EXPO 2019」では、起業家の交流拠点「EDGEof」(東京・渋谷)の柳原暁氏をモデレーターに、ベンチャー企業、大企業、行政の代表者が「スタートアップと大企業をつなぐオープンイノベーション、その成功の法則」をテーマに議論する。講演に先駆けて柳原氏にオープンイノベーションの実状を聞いた。
EDGEof.inc 事業統括/コミュニケーションビルダー
現在は、「Gamechanger's Studio」をコンセプトに掲げるイノベーションスタジオEDGEofにて、スタートアップや研究者、クリエイターといったイノベーターエコシステムをつくり、イノベーションを創出するハブとなる活動に従事。企業とスタートアップの協業支援を行う。
大手企業とスタートアップでは価値観が違う
――最初に「コラボレーションプラットフォーム」と称するEDGEof(エッジ・オブ)について教えてください。
柳原暁氏(以下、柳原氏) EDGEofは、「国内に新しいイノベーションを起こすための起爆剤」となるべくしてつくった「場」です。
例えば、オープンイノベーションでは、大手企業とベンチャー・スタートアップだけでなく、さまざまな領域のプレーヤーが連係する必要があります。技術者、科学者、デザイナー、建築家……といったプレーヤーが協業することで新しい価値がつくられます。ところが、日本にはプレーヤー同士が交流する場所が少ないのです。EDGEofは、異なる領域のプレーヤーが交流してイノベーションを作り上げる場なのです。
プレーヤーは、他国のスタートアップを含め、国内外を問いません。EDGEofの設立直後にスウェーデン国王夫妻がスタートアップ企業担当とともに訪問しました。さらにプレーヤーは企業でなくてもいい。慶応義塾大学メディアデザイン研究科もプロジェクトに参加しています。
EDGEofの役割としては、価値創造の場を提供するだけでなくプロジェクトのインキュベーター(支援者)という側面も大事です。異なる領域のプレーヤーを結びつけるには、パズルのピースをはめるように間に立ってコミュニケーションを円滑にする人間が必要です。互いに想定している売上規模、施策の期間、使う言葉がなどが違うため、まるで仲人のように「柔らかくつなげる」ことが大切です。
――インキュベーターとして苦労している点は?
柳原氏 プレーヤーが本音を語ってくれる雰囲気の構築が一番難しい。大手企業だと役職で対応が変わるし、人事異動もある。なかなかベンチャー・スタートアップと腹を割って話せないことが多いです。逆にスタートアップ・ベンチャー側は、自分たちの良いところを伝えようとするのでオーバーコミットがないとは言い切れないですね。そこで、状況が分かっている私が間に入れば、それぞれの発言を“翻訳”して伝えられます。
また、大手企業とスタートアップ・ベンチャーでは目標が違うことも多々あります。実証実験を例に取っても、スタートアップ・ベンチャーは実証実験の結果を大切にします。これは評価を得て資金を手に入れたいということが理由になります。そのため手堅くプロジェクトを進めたがります。ところが、大企業の担当者の評価軸は自分が出世するかどうかというケースもあるため、結果を度外視しても派手な実証実験を行っていることの喧伝(けんでん)に注力する人もいます。私どもは双方の求めるものを互いができる範囲で調整します。
他にも大手企業の社員は収入が止まるという恐怖はありませんが、スタートアップ・ベンチャーは待機の間に資金が尽きてしまう可能性がある 。スタートアップ・ベンチャーの窮状も、私が間に入っているのでケンカにならずにうまく伝えられます。
成功の鍵は交流と情報の共有
――ずばり、オープンイノベーション成功の鍵は?
柳原氏 (大手企業側が)どんなスキルを持った人と出会いたいかを明確に出せないと、最初のマッチングすらうまくいきません。しかも具体的にです。例えば、「出版社を幸せにしてくれるスタートアップを探しています」よりも、「雑誌にセンサーを仕込んで読者一人ひとりの行動をトラッキングする技術を持ったスタートアップを探しています」のほうがうまくマッチングできる。
とはいえ、オープンイノベーションは始まったばかりの「若い考え方」で、期待値が高すぎます。今はゴールに向けて失敗を積み上げているフェーズです。成功の鍵は国内企業同士、スタートアップ・ベンチャー同士も交流することです。これまで何をやってきたかの知見を基に、しっかり情報やノウハウを共有することが大切。オープンイノベーションのエコシステムの構築が必要ですね。
「スタートアップと大企業をつなぐオープンイノベーション、その成功の法則」(10月10日 15:30~16:10)
「日経クロストレンド EXPO 2019」では、柳原氏がモデレーターとなり、東急グループでオープンイノベーションを推進するフューチャーデザインラボの加藤由将氏、創業依頼、大手企業との提携を複数実現させたユーグレナの永田暁彦氏、スタートアップを支援する「J-Startup」を推進する経済産業省の古谷元氏がパネルディスカッションを展開する。オープンイノベーションを成功に導くために、大手企業とスタートアップ・ベンチャーの双方に求められる視点やアドバイスなどがテーマになる。
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(写真/稲垣純也)