「適度なサポート」が能力を拡張させる

 人に寄り添う人間拡張のコアとなる技術が、「センシング」と「人体のモデリング」だ。

 まずセンシングでは、センサーデバイスを駆使し、人間の状態をリアルタイムに把握することを目的とする。人間を適切にサポートするには、個人個人の状態をリアルタイムに計測・分析することが何よりも肝要。「人の行動を単純に機械やロボットで代替してしまうと、人間は本来の能力を使わないようになり機能が低下していく可能性が高い」(持丸氏)。「サポートしすぎ」を防ぐために、緻密にセンシングをして「適度なサポート」を提供することが人体拡張には求められるのだ。

 適度なサポートが必要になるものとして、持丸氏は「ロボット介護機器」を挙げる。歩くのが困難になった人が補助的に使う歩行器をベースとしたもので、モーターの力で歩行をアシストするのが特徴。だが、ここで重要なのが、「どの程度サポートすればいいのか」だ。

 持丸氏によれば、歩行に困難がある要介護2の人が歩行器を使わなかった場合、歩く量が減りその後の8年間で急激な勢いで自己の身体能力が劣っていく。対して、歩行器を使って歩くことを諦めない人では、身体能力が維持・改善しているケースが圧倒的に多いという。つまり、機械のサポートを受けてでも、継続的に歩くことがその後の結果を大きく左右するのだ。

 そこに人間拡張の出番がある。「歩行に必要な能力を100とした場合、20しかない人は歩くのを諦めがちだった。だが、ロボット介護機器で80を足して100に“拡張”することで生活が楽になる上、能力の維持・向上も期待できる」(持丸氏)。このアシストすべき”強さ”を正しく推定するには、人体の緻密なセンシングが必須。能力が改善したら70、60、50とサポートの割合を減らすことで、さらなる能力の向上にもつながる。

 産総研では、さまざまなセンシングデバイスの研究開発を行っている。中でも注目は、基盤や電子回路を繊維に印刷して作るセンシングシート。高度なプリンティング技術によって、大幅に薄型化・軽量化を達成している。圧力分布や温度分布を計測できるタイプが既に開発されており、地面に敷いたり、着用したりと、どこにでもセンシングデバイスを設置できるようになる革新的な技術だ。「利用者がセンシングされていることを自覚せずに使えるため、さまざまなサービスに組み込みやすい」(持丸氏)という。

電子回路のプリンティング技術を活用した、薄型軽量の圧力分布センシングシート。さまざまな場所に自然に設置できる
電子回路のプリンティング技術を活用した、薄型軽量の圧力分布センシングシート。さまざまな場所に自然に設置できる