本当にプレーヤーはいないのか

 「日本には『Dota2』をプレーしている人がほとんどいない」。試合前にそんな噂を耳にした。そうはいっても、日本代表決定戦である。凄腕プレーヤー同士の戦いが大画面で流れたなら、ゲームを知らない人でも足を止めるのでないか。そんな期待を胸に、まずは午前中に行われる予選を観にいってみる。ブースの近くまで行くと、「整理券はこちらです!」と案内する声が聞こえてきた。すでに行列ができている! と思ったが違った。スタッフが持っているパネルには「パズドラ」と書いてあった。

 『Dota2』の試合会場は、その行列の目の前。あと数分で始まるという時刻なのに、用意された長イスに座っている人は10人ほどしかいない。しかも、よく見るとその大半が取材班なのだ。『パズドラ』に罪はないのだが、背後に感じる熱気との温度差になんだか寂しさを通りこして悔しさを感じてしまう。プレーヤーは本当にいないのだろうか?

 プレスパスをつけていない観戦者を探して話を聞いてみた。開始前から最前列を確保していた男性は『Dota2』プレー歴1年ほどだという(見つけた!)。「他のゲームに比べてやれることが多いので楽しい」と『Dota2』の魅力を教えてくれた。「大学の卒論でeスポーツを取り上げた」という女性は、『Dota2』プレーヤーではないが、日本のeスポーツシーンを追いかけるために観にきたという。

 今回の試合は、2019年12月に韓国・ソウルで行われるIESF主催の国際eスポーツ大会「第11回 eスポーツワールドチャンピオンシップ」Dota2部門の出場をかけた日本代表決定戦。予選では、過去の戦績をもとに招待された4チームがトーナメント方式で対戦する。本戦には最大46カ国が出場予定だ。

 予選第1試合を戦う選手たちが入場すると、拍手とともに選手名を叫ぶ人も。いつのまにか後方には立ち見のギャラリーができていた。関係者も含めて観戦人数は100人規模に増えていたように思う。

徐々に人が増え、立ち止まってステージを見る人たちがブースを取り囲む
徐々に人が増え、立ち止まってステージを見る人たちがブースを取り囲む

ゲーム内容は5対5の「陣取り合戦」

 ゲームの内容をざっくりと確認しておこう。『Dota2』は、5対5で行う陣取り合戦。先に敵の本陣を破壊したほうの勝利となる。プレーヤー5人にはポジションがあり、攻める、守る、奇襲をかけるなど、それぞれが担う役割も異なる。

 プレーヤー同士がぶつかりあうだけではない。互いの陣地にはタワーと呼ばれる敵を攻撃するオブジェクトが10個以上あり、タワーを破壊しながら進軍しなければならない。各所に設置された見張り台を壊して、相手の本丸を落とすようなものだ。

 ルール自体はシンプルに思える。しかし、実際に試合を観るとすぐさま「何が起きているのかわからない」状態になる。なぜか。必要な前提知識が多すぎるのだ。

 『Dota2』にはプレーヤーが選べるキャラクターが100種類以上いる。各キャラクターの特性、つまり「このキャラは何ができるのか」を最低限把握していないと、両チームの戦術はもちろん、試合の展開にまったくついていけない。

 戦略がわからなくても楽しく観戦できるゲームもある。『Fortnite(フォートナイト)』はプレーヤーが高速で建造物を作り上げる様子が圧巻だし、『レインボーシックス シージ』はシビアな撃ち合いに盛り上がれる。選手の目線になって臨場感を楽しめるからだ。

 『Dota2』ではそれができない。映し出される画面は引きの構図で、常に複数のキャラクターがせわしなく動き回っている。もちろん、それでいいのである。ゲームを理解している観客は戦略の妙を楽しんでいるからだ。

試合の様子。ルールを知らないと、今どちらが攻めているのかすらわからない
試合の様子。ルールを知らないと、今どちらが攻めているのかすらわからない