千葉・幕張メッセの東京ゲームショウ2019(TGS2019)で行われた「TGSフォーラム 2019」の専門セッション「スタンドアローン型HMDはVRマーケットの起爆剤となるのか?」は「Oculus Quest」の発売をきっかけに、VR(仮想現実)市場がどう変わっていくかを議論するパネルディスカッションだ。

 2019年5月にFacebook傘下のOculus VRが発売した「Oculus Quest」は、データ処理用のパソコン(PC)に接続せずに動作するスタンドアローン型のVR用ヘッドマウントディスプレー(VRHMD)。6DoF(上下・前後・左右+3軸の回転方向)の動きを検知するセンサーを備えることで、VR空間を歩き回れる。それでいて価格は399米ドル(日本価格は4万9800円)からと安いことから、「VR普及の第一歩になる製品」と期待されている。

専門セッション「スタンドアローン型HMDはVRマーケットの起爆剤となるのか?」の様子
専門セッション「スタンドアローン型HMDはVRマーケットの起爆剤となるのか?」の様子
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 議論に参加したのは、Oculus VR コンテンツ エコシステム ディレクターのクリス・プルエット氏、あまた 代表取締役プロデューサー・ディレクターの高橋宏典氏、バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー クリエイティブフェローの小山順一朗氏、同じくバンダイナムコアミューズメント ニュークリエイティブディビジョン 事業企画部 コンテンツプロデュース課マネージャーの田宮幸春氏の4人。モデレーターは日経 xTECHの東将大記者が務めた。

「どっちも必要、でも6DoFは必須」(プルエット氏)

Oculus VR コンテンツ エコシステム ディレクターのクリス・プルエット氏
Oculus VR コンテンツ エコシステム ディレクターのクリス・プルエット氏
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 まず最初にOculus VRのクリス・プルエット氏がVRHMDに関するこれまでの流れと現状を解説するプレゼンを行った。

 Oculus VRがVRHMDの開発者向けキットを発売したのは13年。そこから開発に約3年かけ、16年に発売したVRHMDがPC接続タイプの「Oculus Rift」だ。19年3月には改良版の「Oculus Rift S」を発売。それと並行して、スタンドアローン型のVRHMDも投入した。18年5月発売の「Oculus Go」などを経て、19年5月に最新の「Oculus Quest」を発売している。

 このように同社は、高解像度で処理性能の高いPC接続型と、モバイル端末ベースで比較的低価格にVRを楽しめるスタンドアローン型をラインアップしている。2系統のVRHMDを製造・販売するのは「2つのタイプでユーザーの志向が大きく異なるから」とプルエット氏は説明する。

 「Oculus Riftは高性能なPCと接続する必要があるので、どうしてもハードコアなユーザー中心の商品になる。そこで18年に発売したOculus Goは、誰でもアクセスしやすい、一般のユーザーが楽しめるVRHMDとして企画した。PC用と一般用、どちらがどう売れるかデータを集めながら、広告の作戦を少しずつ変えてきたが、Oculus Riftがゲーム用途で成功した一方で、Oculus Goは自分だけの“映画館”でNetflixを見るような使い方が人気と分かった」(ブルエット氏)

 ユーザーの行動も大きく異なるという。

 「PCユーザーは、使う時間もお金も多いが数が限られる。Oculus RiftはハイスペックPCを持っていないと使えないという弱点があるからだ。一方、スタンドアローン型は、ユーザーが掛ける時間もお金も少ないけれど、ニーズの種類は圧倒的に多いことが分かった」(ブルエット氏)

プレゼンをするプルエット氏
プレゼンをするプルエット氏
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 一方で、操作体系には共通の部分もある。スタンドアローン型の初代Oculus Goが3DoF(トラッキングによる3D空間内での自由度が直交座標系の回転方向のみ)だったのに対し、最新のスタンドアローン型であるOculus QuestやPC接続型のOculus Riftシリーズは、6DoFを実現している。

 これについてブルエット氏は、「PC接続型とスタンドローン型、どちらが大事か。数年かけてデータを集めて気付いたのは両方必要だということだ。ただ、6Dofの方がプレー感覚もいいし、(ユーザーが)かける時間もお金も多くなる。スタンドローン型にしても6Dofでなければいけないという結論になった」。

 VRHMDを持っていない人を対象に「もしVRHMDを買ったら何をしたいのか?」を調査したところ、一番多いのはやはりゲームだったという。また、PCゲーマーとゲーム機ゲーマーはほとんどが重なっており、ゲーム機のようなVRHMDを作ればほとんどがターゲットになるのではないか。Oculus Questの開発はこうした観点から始まったとブルエット氏は明かした。

「ポジティブに思い描いていた未来から遠くない」(高橋氏)

 続くパネルディスカッションでは、まずVRゲーム市場の現状について語られた。

 VRエンターテインメント施設「VR ZONE」をはじめ、19年7月には東京・池袋に「アニメとゲームに入る場所」をコンセプトにした「MAZARIA(マザリア)」をオープンしたバンダイナムコアミューズメントの小山氏は、VRの認知状況について次のように語る。

バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー クリエイティブフェローの小山順一朗氏
バンダイナムコアミューズメント プロダクトビジネスカンパニー クリエイティブフェローの小山順一朗氏
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 「都内在住の男女を対象にしたアンケートでは、VRがどういうものでどういう体験ができるのか知っているのは90%くらいだった。だが、実際に体験した人は6%くらい。『VRはこういうもの』という判断は終わっている状況だ」(小山氏)

 これに、同社の田宮氏が続けた。「お台場や歌舞伎町にVR ZONEを出したときは、目新しさが先行してメディアでも話題になったが、MAZARIA立ち上げのころにはニュアンスが変わった。『VRの先にはこういう楽しさがある』ということに興味を持たないと手には取らない。デバイスはどうでもよくて、その先にどんな楽しみが待っているのか、ということだ」。

バンダイナムコアミューズメント ニュークリエイティブディビジョン 企画開発部 イノベーション課マネージャーの田宮幸春氏
バンダイナムコアミューズメント ニュークリエイティブディビジョン 企画開発部 イノベーション課マネージャーの田宮幸春氏
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 VR脱出アドベンチャーゲーム『Last Labyrinth』の開発を進めるあまた の高橋宏典氏も、「『VR元年』と言われた2016年に、ポジティブに思い描いていた未来から遠くない状況」という見解を示した。「ソフトを作る方からすると、家庭向けVRHMDの普及台数は一定まで来たかなと思う。SteamVRのアクティブユーザー数も伸び続けている。ここにOculus Questが来ると、さらに伸びるではないか。家庭用としては時間がかかったが、ポジティブな状況になりつつあるという認識だ」(高橋氏)

あまた 代表取締役プロデューサー・ディレクターの高橋宏典氏
あまた 代表取締役プロデューサー・ディレクターの高橋宏典氏
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 さらに普及させるためには、クオリティーの高いゲームが必要だとブルエット氏は指摘した。

 「将来的にはVRHMDが増えるにつれて、ゲーム以外の使い道が増えるだろう。ただし、今のユーザーはクオリティーの高いゲームをやりたいと考えている。また、VRは体験したことのない人に説明しようとしても難しい。だが、いいソフトがあれば、かぶった瞬間に分かってもらえる」(ブルエット氏)

 加えて、一般の人が興味を引くIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)も大きなカギを握るだろう。

 「例えば『スター・ウォーズ』の世界に入ってダース・ベイダーの前に立つというのは想像に難くない。スター・ウォーズでもゲームのIPでも、(よく知られているものなら)『自分でもできる』とお客さんが反応すると思う」(ブルエット氏)

「Oculus Questはシュノーケリングくらいの手軽さ」(田宮氏)

 11月に発売予定のVR脱出アドベンチャーゲーム『Last Labyrinth』の開発を進めているあまたは、9月10日に同作品のOculus Quest対応を発表したばかりだ。高橋氏はOculus Questに対応した理由を「6DoFとハンドプレゼンス(VR空間内で手が使えること)」と明かす。

会場は満席
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 「当初は3DoFのOculus Goも検討したが、VRならではの体験を実現するためには6DoFとハンドプレゼンスが必要だと考え、一度はPC接続型のVRHMDとPlayStation VR(PS VR)で作ろうと判断した。だがその後、Oculus Questの発表を受け、変更した。VRは個人的な体験が強いデバイスなので、Questはヒットする可能性が高いと思う。モバイル用チップセットを使っているので(処理が)遅いところはあるが、開発チームは苦労しながら最適化している」(高橋氏)

 バンダイナムコアミューズメントのMAZARIAでは『アスレチックVR PAC-MAN CHALLENGE』でOculus Questを利用している。開発当初はOculus Questの処理性能に不安があったものの、「(あまり処理性能の高くない)この環境でどういう絵を出せるかという知見があれば、同じノウハウでできると思う」と田宮氏は語る。

 高橋氏も、「PlayStation 2や3あたりの、テクスチャーやシェーダーでうまく見せる匠の技術をうまく使えばできる」と同様の見解を示した。

 実際に『アスレチックVR PAC-MAN CHALLENGE』ができあがってみると、従来との体験の質の違いは大きかったと田宮氏は語る。

 「約10kgの『バックパックPC』を背負って歩き回る『ドラゴンクエストVR』をスキューバダイビングとすれば、Oculus Questはシュノーケリングくらいの手軽さと自由がある。『だったら自分も行きたい』と思えるような、体験としての質の差は出ている」(田宮氏)

「老後の新たな楽しみ方などにも可能性がある」(小山氏)

 スタンドローン型VRHMDによってゲームはどう変わっていくのかというテーマでは、小山氏がユニークな持論を展開した。

 「(ゲーム業界に)入ったときからゲームの本質はなんなんだろうと話していて、『心の美と健康』だよねと言っていた。ただ、心が落ち込んだとき、ゲームで活力を取り戻せても、(特に家庭用ゲームの場合は)体は動かさないし、本当の美と健康じゃない。でも(VRで)あれだけ動かせるようになると、本当の意味で新しい美と健康が生まれると思う。人生100年時代と言われ、健康の価値が加速度的に高まる中、スタンドアローン型VRで体を動かす全く新しい市場が生まれるのではないかと思う」(小山氏)

最後まで活発な議論が続いた
最後まで活発な議論が続いた
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 今後のVRHMDの姿や、普及に向けた課題については田宮氏がこう語った。

 「ハードの理想型はゴーグルからメガネになっていくことだろう。コントローラーはなしで、そのまま手で使えるようになってほしい。また、普及のためにはエンターテインメントだけでは弱いので、AR(拡張現実)のようにいったん実用に振られるフェーズがやってくるのではないか。仕事に便利、生活に便利という方向からハードの需要が増え、そこから開発者の挑戦にドライブがかかるといった感じだ。そこから戻ってきたとき、エンターテインメントとしてもさらに面白いものが作れるという流れがあるのではと思う」(田宮氏)

 また、小山氏は「セカンドキャリアを考えるときも別の生き方ができる。VRの中でものを作ったりもできるので、今後の社会では必要不可欠になっていくだろうし、そういう世界にシフトしないといけない。5GやAIなども組み合わせてそういう世界を作れればと思うのでが、そのとき中核に必要なのがVRHMDだろう」と展望した。

 高橋氏はVRがインターネットのようなプラットフォームになっていくと見る。

 「もはや『インターネットしてる?』などと人に聞かないように、VRとかXRとかもあえて言わなくなるくらいのプラットフォームになると思う。(VRやXRの)普通にデバイスを身に着け、ARクラウドみたいなもので現実が覆われているような未来が来ると、いろんな意味で人間が自由に解き放たれる時代が来ると思う」(高橋氏)

 ブルエット氏は、VRが人と人をつなげるものになるのではないかと展望した。

 「行けない場所に行くだけでなく、そこの人にも会いたい。別の世界に入っても自分しかいないならナンセンスだ。今はVRチャットなどでもアバターしか見えていない状態で、ゲームならそれでもいいが、恋人や奥さんとの関係ではだめだ。その人の感覚が分かるくらいにならなければならない。VRはいずれ人と人をつなげる場所になって行くと思う」(ブルエット氏)

モデレータを務めた日経 xTECHの東将大記者
モデレータを務めた日経 xTECHの東将大記者
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(文/写真/加藤康)