「eスポーツを地方創生に生かせないか」という新しい取り組みが広がっている。東京ゲームショウ2019(TGS2019)会場で、2019年9月13日に開いた専門セッションでは、カプコン、Cygames(サイゲームス、東京・渋谷)のほか、富山県と大分県のeスポーツ連合の代表者がeスポーツを広める方策を語った(モデレーターは日経BP・平野亜矢記者)。
地方創生への取り組みとして成功している企業の1つが、カプコンだ。格闘ゲームの『ストリートファイター』で対戦する「ストリートファイターリーグ」と呼ばれる賞金制のリーグ戦があり、アーケードゲーム機で戦う「アーケードリーグ」、大学生や専門学生を限定とした「学生リーグ」、地方開催の「ルーキーズキャラバン」といったアマチュア向けの予選大会を開催している。
それぞれのリーグで勝ち上がった人たちは、プロとチームを組んで試合ができる「ドラフト会議」に参加するべく、トライアウトとして試合を行い、その様子を見たプロゲーマーが適性のある選手を自分のチームメイトとして選出してチーム戦を行うのだ。
カプコン執行役員グローバルマーケティング統括本部eSports推進統括の清水信彦氏は「ルーキーズキャラバンは地方でプレーヤーを発掘する目的がある。今年の大会はニュースにも取り上げられ、去年よりも盛り上がった」と成果を実感している。お盆休みの時期に熊本県嘉島町のショッピングモールで大会を開いたときには「ストリートファイターファンだけでなく子供も来てたくさん興味を持ってもらえた」(清水氏)。現在、地方から『eスポーツの大会を開きたい』との申請が増え、地元を盛り上げたいという動きが活発になっていることを実感していると語った。
Cygamesも、スマホやPCで遊べるカードゲーム『シャドウバース』のeスポーツ大会を全国展開している。各地でeスポーツ大会を開きたいという企業や団体に向けて、開催を支援するという取り組みだ。このイベントはES大会と呼ばれ、ホビーショップや飲食店などで開催される。Cygamesメディアプランナーチーム マネージャーの松本竜也氏は「東京や大阪などの都市部は会場となる店舗や学校の数が多い。大会の開催数も増え、独自のコミュニティーが発展して定期的にイベントが開催されている」と説明する。特に盛り上がっている地域では1カ月で380回行われ、参加者数は3500人以上にも達するという。
地方の特性を生かしてeスポーツを広める
独自の組織を設立し、eスポーツで地方を活性化させようとしている団体もある。その代表が富山県だ。「富山らしさ」を意識し、地域に根差したイベントを開催しようと、地元の人と協力しながら大会を運営している。
富山県eスポーツ連合会長の堺谷陽平氏によると、2016年の春に開催した最初のイベントでは、参加者が5人くらいしか集まらず、苦戦したという。「地元の参加者に『どうしたら参加者が増えるのか』『どんな大会があるとよいか』など相談して手伝ってもらい、地域の特色を生かした企画を考案した」(堺谷氏)と振り返る。
例えば、富山は魚がおいしいことで有名なので、大会の翌日に寒ブリを釣りに行くなど、イベントと抱き合わせて参加者により楽しんでもらえるようにした。その後、徐々に参加が増えて100人規模へと発展。地元企業にもバックアップしてもらえるようになって、大きな会場を借りて大会を実施できるまで成長した。賞金を付けるだけでなく、高岡市と魚津市にサテライト会場を作り、それぞれの市長が対戦するといった、一風変わった企画なども考えているという。
大分県も、自治体と協力しながらeスポーツの普及に取り組んでいる。大分県eスポーツ連合を設立した会長の西村滉兼氏が着目したのは、大分県が日本一の温泉県であること。「別府市の観光資源を使えるのではないかと考え、別府市長にダイレクトメールを送って協力を仰いだ」(西村氏)。eスポーツやゲームイベントを通して、大分のよさを知ってもらおうと、別府市長や市の観光課の協力によって、2019年3月末に『BEPPU ONSEN LAN(別府温泉LAN)』を開催した。
社内大会や企業対抗戦を通して、関係を深めることも
「BEPPU ONSEN LAN(別府温泉LAN)」は、LANパーティー(参加者が持ち寄ったパソコンやスマホをネットワークでつないでゲームを楽しむこと)の一つで、プレーヤーが1カ所に集まり、夜を徹して遊ぶというもの。西村氏は「温泉でのLANパーティーは非常に好評だったが、まだ別府市で大会を開催できていない。別府市を拠点としたeスポーツアリーナを作って、大きな会場で世界大会や国内大会を開き、eスポーツツーリズムとしてうまく地方創生に生かせるように動いていきたい」と意気込みを語る。
eスポーツは地方創生だけでなく社内コミュニケーションの活性化にも生かせる。清水氏によると、カプコンでは19年7月に、大阪の本社で『ストリートファイター』の社内大会を開いた。予選大会では141人のプレーヤーが、観客は541人集まり、かなり盛り上がったとのこと。「ストリートファイターは、要職の人も若いころにやっていたゲームでもあるので、懐かしい気持ちになって楽しんでもらえる。社内のコミュニケーションの活性化だけでなく、企業のeスポーツに対する理解を深めることにもつながるはず」(清水氏)。複数の企業を集めて対抗戦を開けば、名刺交換するなどして、新しいビジネスが生まれる可能性もある。社内外の関係を深めるツールとして、eスポーツの可能性が広がりつつあるようだ。
eスポーツを広めるのは簡単なことではない。大分県eスポーツ連合の西村氏は「eスポーツはコアなゲーマーたちの間で盛り上がっているイメージがある。どのスポーツにも言えることだが、下位の層も取り込まなければうまく広がらない。限られた範囲で盛り上がっているのは単なるはやりでしかない」と危機感を示す。長続きさせて広めていくためには、一般の人にもゲームの楽しさを知ってもらい、カジュアルな大会に出てもらうのが一番だという。
押し付けるだけでは決して広がらない
大会参加者を集めることに苦戦した富山県の堺谷氏も「ゲームと接点がなかった人たちは必ずいて、その人たちの理解を得るのは難しいが、広めるうえでは必要。私たちが主体的に動いてもなかなか根付かないので、eスポーツをやりたい人が動いているのを応援するのが一番いい」と話す。運営団体や企業が積極的に動いても、実際にプレーする人たちの熱量がなければ、普及しないのだ。
Cygamesの松本氏も「企業側も各地域とコミュニケーションとってはいるが、こちらから一方的に提案やお願いすることは基本的にない。イベントを根付かせるには、熱量のある人がいないとうまくいかないと感じている」と、堺谷氏の意見に賛同する。熱量のある人たちがイベントや大会をけん引しようと思っても、大勢の人が集まる場所を個人で用意するのは困難だ。そのため、支援してくれる自治体や企業は必要不可欠となるためだ。富山県や大分県のように「自分たちで地域と人をつないでイベントを大きくしていくのが一番よい形ではないかと思う」(松本氏)。
大分県の西村氏は、eスポーツで地方創生をするためには、共通認識を持つことが大切だと語っている。「今、私たちは大きな会場で大会を行うことを目標に別府市と協力して活動をしているが、自治体とうまくいっているのは明確な目標を設定して前向きに取り組めているからだと思っている。ただ漠然と地方創生をうたっても、どこへ向かえばよいのか、予算をどう立てるかなど迷子になってしまうので、最終目標をきちんと話し合うことが大切だ」(西村氏)。
eスポーツで地方創生を目指すのは簡単なことではないが、地域のコミュニティと企業や自治体がより密接な関係を築くきっかけにもなるだろう。そう考えると、eスポーツはさまざまな新しい活用法や可能性があるのではないだろうか。eスポーツの今後の展開が楽しみだ。
(文/吉成早紀、写真/志田彩香)
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