プロゲーマーのパフォーマンス向上を図るため、プロのトレーナーと契約するゲーミングチームが近年増えているという。トレーナーの起用には具体的にどんなメリットがあるのか? 東京ゲームショウの日本eスポーツトレーナー協会ブースにて、鍼灸師によるケア(マッサージ)を実際に受けてみた。
場所はTGS2019の9ホール。eスポーツコーナーを取材していた筆者は、「一般社団法人 日本eスポーツトレーナー協会」と書かれたブースの前でふと足を止めた。ブース自体は失礼ながら小さかったが、白衣をまとった2人のスタッフが、来場者たちに1人あたり5~10分程度の時間で、体の気になる部分などを尋ねつつ、マッサージを次々とこなす姿に思わず見入ってしまったからだ。
同協会の代表理事を務める佐藤知世氏にお話を聞いたところ、協会は19年5月に法人として立ち上げたばかりだという。「トレーナー業を通じて、eスポーツ業界に貢献したいと思って協会を作りました。法人化したのは、より信頼が得られやすいだろうというのが理由です。出展の狙いは団体の知名度を上げることと、ご縁のあったプロゲーマーやチームの方々、ゲーム関連会社のみなさんとお付き合いをさせていただければと思ったからです」(佐藤氏)
また、佐藤氏以外のメンバーはいずれも鍼灸師の資格を持っており、『鉄拳7』の世界チャンピオンであるプロゲーマー、ノビ選手からは同協会を推奨していだいているとのこと。「正式な契約はまだこれからですが、まずは対戦格闘ゲームのプロゲーマーのみなさんを中心に展開させていただこうかと思っております」(佐藤氏)
世界一のプロゲーマーからお墨付きをいただくほどのトレーナーを擁する同協会はいったいどのような技術を持っているのだろうか? ならば、百聞は一見に如かずということで、筆者も早速スタッフにボディーケアをお願いすることにした。
約10分で、体の違和感が劇的に改善!
筆者は公私共々、普段からゲームを長時間遊ぶ機会がひんぱんにあるが、幸運なことに長時間プレーによる肩こりや腰痛、眼精疲労などの自覚症状は一切なく、40歳をとうに過ぎた今でも、休憩なしで4時間でも5時間でもぶっ続けでプレーすことができている。
その半面、原稿を執筆しているときは、真剣に取り組んでいるからか、それとも姿勢が悪いせいなのか、ここ数年の間にフィジカル系のアクシデントがなぜか続いてホトホト困っている。3年ほど前には、床に落としたペンを拾おうと前かがみになった瞬間、腰の辺りから「パキッ!」という音が鳴り、それ以来前かがみの姿勢が続くと腰に張りが出やすい状態が続いている。
また、2年ほど前には寝落ちした勢いで首をガクンとひねる運動を繰り返した結果、首を軽く回すだけで骨がバキバキ鳴り、たまに横を向くだけでも軽く痛むようになってしまった。
さらに2週間ほど前には、寝相が極端に悪かったせいなのか、目が覚めたら右腕の付け根付近に突如違和感が生じ、現在も頭上に向かって腕を伸ばすと鋭い痛みが時折走る始末――。特に、右腕の違和感はいっこうに改善の兆しが見えず、まれにだがゲームのプレー中にも痛みが気になるようになり、少なくない危機感を覚えつつ日々を過ごしている。
そこで、まず最初に右腕が痛むことをスタッフに伝えたところ、右手の指を1本ずつ押したり揉んだりしているうちに、やがて何かを発見したらしく、腕や肩周辺のマッサージを開始。 実は筆者、プロの方からボディーケアを受けるのは生まれて初めてだったので、もし激痛が走りまくる荒療治になったらどうしようなどと正直緊張していたが、程なくして痛みが緩和されたのでビックリしてしまった。
続いて首がときどき痛むこともスタッフに伝えたところ、両腕を使って筆者の首を大きく2回ひねるというケアを施してくれた。ひねった瞬間に3、4回ほど「バキッ!」という大きな音が立て続けに聞こえたが、以前よりも首を回したときに鳴る音が激減し、しかも左右どちらを向いても痛みがほとんどなくなっていたので、またも驚かされた。
続けざまに腰の違和感も説明したら、腰の辺りを指圧などで調べているうちに、「腰が曲がって、右足のほうが短くなっているので伸ばしていきますね」と言われた。「足を伸ばすってどういうこと?」という素朴な疑問も含め、スタッフからの指摘にはまたまたビックリ。まさか、足の長さが左右違ってしまうほどに歪んでいたとは……。
するとスネやふくらはぎの周辺を、思わず「イテッ!」と何度も声を出すほどの強い力で、スタッフが立て続けに押したり曲げたりし始めた。さらに、スタッフの手に導かれるようにして、膝の伸縮などによるケアを繰り返した結果、これまた不思議なことに、右足がわずかに伸びた感触が確かに得られたので本当に驚いた。
わずか10分ほどのマッサージであったが、終わった直後は全身から汗がじわっと出てほど体が熱を帯び、実に快感だった。しかも、ありがたいことに「右肩が少し前のほうに出てしまっているので、ストレッチを繰り返しするようにしてくささい。続けていくうちに、だんだん戻っていくと思いますよ」(担当スタッフ)というアドバイスまでいただけたので、ただただ感謝するばかりであった。
そして治療後、ほかのブースの試遊コーナーで取材をしつつ何度かゲームを遊んでみたが、ここ最近特に困っていた右腕の痛みが、かなり解消されているのが確かに実感できた。さらに、日々持ち歩いているニンテンドー3DSを取り出して遊んでみたところ、こちらも右腕をほとんど気にせずに遊ぶことができた。
マッサージから2時間ほど経過し、体の熱が冷めてからは、残念なことに右腕の違和感は以前とほぼ同じ状態に戻ってしまった。しかし、ことeスポーツという場においては、プレーヤーが試合の間だけ一時的に痛みを和らげたり、体を温めたりしてコンディションを高めてくれる、プロのトレーナーによるケアは確かに意味があると言えるのではないだろうか。
ちなみに、これは余談になるが、取材に同行していただいたカメラマンさんからマッサージ終了後に、「身長が伸びましたよ!」と真顔で言われた。まさかこの歳になって、身長の伸びを指摘されるとは夢にも思わなかった……。
前出の佐藤氏によると、「『EVO Japan』(※)の開催が控えておりますので、こちらにも出展できたらと考えております」とのこと。同協会の出展が決定した際には、トレーナーを探しているプロゲーマー、またはチーム関係者の方々は相談を持ち掛けてみてはいかがだろうか? 今後はeスポーツの普及が進むにつれて、トレーナーの市場も拡大していく可能性を、文字どおり身をもって実感した。
※対戦格闘ゲームを多数使用して行われるeスポーツ大会のこと。来年1月には、TGSと同じく幕張メッセを会場として、『EVO Japan2020』の開催が予定されている。
本記事に記載された痛み緩和などの効果はすべて個人の感想です。
(文/鴫原盛之、写真/志田彩香)
関連リンク
東京ゲームショウ2019特設サイト
東京ゲームショウ2019公式サイト