ゲーム大好き、「ストリートファイター」シリーズのすご腕プレーヤーとして知られ、eスポーツ関連のイベントにも多数出演するゴールデンボンバーの歌広場淳さん。集中連載の3回目は、運営サイドも知る歌広場さんが感じる、eスポーツの課題と今後の発展の方向性を語ってもらった。聞き手はゲーム分野を長く取材してきたライターの稲垣宗彦。

ゴールデンボンバーの歌広場淳さん
ゴールデンボンバーの歌広場淳さん
歌広場 淳(うたひろば じゅん)さん
1985年生まれ。ヴィジュアル系エアーバンド「ゴールデンボンバー」のベース担当。大のゲーム好きで、全国ツアー中は各地へアーケードコントローラーを持ち回り、会場や宿泊ホテルでゲームを行うほど。eスポーツイベントに自ら出場したり、解説やMCも務めたりと、eスポーツへの造詣も深い

インタラクティブ性がゲームならではの魅力

――認知度が高まってきたeスポーツですが、これからゲームやeスポーツを楽しむ人のすそ野を広げていくためには、どんなことが必要でしょうか?

歌広場淳さん(以下、歌広場): 同じ娯楽として考えたとき、映画や漫画にない、ゲームならではの魅力は何かと言えば「展開に関与できること」ですよね。危険なシーンで映画や漫画の登場人物に「そっちに行ったら危ない!」と言っても無駄ですが、ゲームなら自分で操作して回避できる。そのインタラクティブ性が持つ魅力がもっと伝わることではないかと思います。

 一時、「ゲーム感覚」という言葉を否定的なニュアンスで聞くことがよくありました。「ゲーム感覚で人を殺す」といった使い方ですね。でも、僕はそれに違和感があったんです。

 というのも、僕は『不思議のダンジョン 風来のシレン(以下、風来のシレン)』(スパイク・チュンソフトのダンジョン探索型RPG)というゲームを1000回以上遊んだことで、「人生ってのは、死んだら終わり」ということを学んだんです。どんなにお金を持っていても、どんなに強い武器を持っていても、どんなにいいアイテムを持っていても、死んだら終わり。世間では「いくらでもリセットできる」というような意味で「ゲーム感覚」という言葉を使いますが、僕は真逆で、「死んだら終わり」という生きる上での明確なルールをゲームから学びました。

 映画も漫画もゲームも娯楽であり、その意味では生活において「無駄なもの」なんですが、時としてそこから学びを得たり、暗闇の中に光をさす存在になったりする。特にゲームはインタラクティブ性があるために、体験の強烈さが違う。そういったゲームが持つ根本的な特徴を改めて伝えることも、ゲームを広めるためには大事かなと思いますね。

eスポーツはプロだけのものではない

――eスポーツがゲームにもたらした変化の1つに、家で1人で遊ぶものではなくなってきたことがあると思います。選手として出場するためだったり、観客として誰かを応援するためだったり、会場へと足を運ぶ楽しみが増えました。

歌広場: そうですね。僕が好きな対戦格闘ゲームは誰かと戦うことが遊び方の中心で、ゲームセンターに出かけて、そこにいる誰かと戦うものとして発展してきました。でも、eスポーツの大会には、プレーしない人も多く集まります。プレーヤーというよりも、もっと広い意味での「ゲームファン」が集まりますし、その顔が見えるようになったことは大きな違いだと思います。

――eスポーツの会場やプロチームのファンミーティングに行くと、女性のゲームファンが増えていることを実感します。

歌広場: 女性のプロゲーマーも増えましたね。皆さん、人前に出ることを意識していますから、かわいくてきれいでおしゃれです。

――以前、あるゲーミングチームのファンミーティングを取材したとき、観客の6割近くが女性で驚きました。好きなゲーマーと会えるので、皆さん、おしゃれに気合が入っていて、プレーもうまい人がたくさんいる。古くからのゲームファンからすると驚く景色も、今は普通なのかもしれません。

歌広場: いい話ですね。eスポーツがそれだけ浸透してきたということだと思います。eスポーツはプロゲーマーだけのものではないんですよね。全てのゲームファンのものだから、見るだけでもいいし、参加してもいい。カジュアルに楽しめるものだということが、もっと知られていいと思いますね。

「eスポーツはプロの文脈で語られがちですが、プロだけのものではないんです」(歌広場さん)
「eスポーツはプロの文脈で語られがちですが、プロだけのものではないんです」(歌広場さん)

19年は敗者がeスポーツの魅力を表す?

――ファン層を広げるという意味では、ゴールデンボンバーのメンバーとして広く知られている上、ゲーマーとしての強さも持つ歌広場さんは、伝道師として適任だったと思います。

歌広場: そうかもしれませんが、“貯金”が尽きてきている感じもします。僕はeスポーツイベントに呼ばれてコメントを求められると、その試合のすごさや魅力を僕の中にある「ゲームは楽しい」という気持ちでコーティングして外に出すんです。でも、その楽しいという気持ちがどんどん減ってきている感じがするんです。

――今まではゲーマーとしてゲームの楽しみをインプットしてきたのが、この1年はアウトプットのほうが多かったということでは?

歌広場: そうなんですよ! 熱意の貯金がもう尽きかけているのに、「まだあるはずだ!」と貯金箱をひっくり返しているような状況です。

――2回目の記事「金爆・歌広場淳、制作側から感じる「eスポーツ」捉え方の変化」にも、勝つことを求められすぎて、ちょっとゲームがつまらない時期があったというお話が出ました。そんな歌広場さんが今、「eスポーツの魅力」を問われたら、なんと答えているんですか?

歌広場: それはとても簡単で「下手でもいい」ということです。18年のeスポーツは、エクストリームなスポーツ、プロゲーマーのものでした。でも、19年は、敗者側にスポットが当たるべきなんです。

 勝っている人は自然と注目されます。インタビューされることも増えますし、その姿が目に触れる機会も多くなります。結果、目新しさがなくなって飽きが出てくる。ではどういう人にスポットを当てるべきなのかと言うと、敗者です。勝ててない、でも、やめない人。

 負けた人は勝った人に比べたら弱い。でもそれは勝者と比較したときの相対的な話であって、絶対的な強さとは違うんですよね。大会で負けてしまう。弱い。下手。では、意味がないのかと言うと、そうじゃない。敗者の発言をはじめ、パーソナルな部分を見たら、戦績とは別の魅力があります。

 19年以降は「下手であること」「弱いこと」が逆説的にeスポーツの魅力を表す年になっていくのではと思います。負けてもプロとして、あるいはゲーマーとしての道は続く。ほかのスポーツと同様に、敗者にもスポットが当たるべきなんですよ。

動画配信でゲームが下手な歌広場を見せる

――この1年、ずっと強さを求められた歌広場さんの活動にも影響しそうなお話です。

歌広場: そうなんです。eスポーツの魅力を「下手でもいいこと」と考えたとき、僕は自分のゲームの下手さをもっとさらけ出したいと思うようになりました。僕はずっと自分という人間を持て余している状態だったんです。ゲームに詳しい、強い、上手いという見方で接してくださっている人は多くて、だからこそゲームのお仕事に関わる機会も増えました。

 でも実は僕、「ファイナルファンタジー」も「ドラゴンクエスト」も「マリオブラザーズ」も、シリーズのタイトルがあんなにあるのに1作もクリアしたことがないんですよ。「テトリス」のような落ちものパズルも苦手です。「え? 歌広場くんて、本当にゲームうまいの!?」ってよく驚かれます(笑)。

――対戦格闘オンリーの、一点突破型ですよね(笑)。

歌広場: そうなんですよ(笑)。『ストリートファイターⅤ』では芸能界最強かもしれませんが、それによって「ゲーム全般がうまい」という幻想を周囲に与えてしまいました。僕自身、下手でもいいと気づくことで、自分で持て余していたその幻想と対峙する機会を得たんです。

 だから、今後は自分の下手さを自由なスタイルで見せる、動画配信のようなことをやってみたいですね。例えば、僕は空間把握能力が異様に低いから「スプラトゥーン」(任天堂のアクションシューティングゲーム)みたいなゲームはすごくヘタクソだと思う。というより、『ストリートファイターⅤ』以外のゲームでは、負けちゃったり、クリアできなかったりすることばかりだと思います。

「下手さを見せる動画配信とかやってみたいですね」(歌広場さん)
「下手さを見せる動画配信とかやってみたいですね」(歌広場さん)

――それは『ゲームセンターCX』(よゐこの有野晋哉さん扮(ふん)する“有野課長”が出演するゲームバラエティー番組)のeスポーツ版ということですか?

歌広場: 実はそういうことなんですよね(笑)。有野さんて下手だけど止めない。ゲーム好き芸能人を10人挙げろと言われたら、有野さんは絶対入ると思います。ゲームが好きという以上に、ゲームに関する体力が異様に高い人なんです。

――へこたれないですよね。

歌広場: あのプレーを見ると、有野課長が多くの人に受け入れられた理由がわかりますよね(笑)。

 今の人たちがテレビ番組や動画配信に求める楽しさって、視聴者が体験できないことを代わりに見せてくれる部分だと思うんです。働いたり、学校に行ったり、今の人って、ゲームを遊ぶ時間が実はあんまり取れないですよね。eスポーツどころじゃない人も少なくないと思うんです。

 そういう人の代わりに、ヒマな僕たちがゲームをやるべきなんですよ(笑)。あくまでも見ている人の代理としてゲームをプレーするんですから、必ずしもうまい必要がない。そこに気づいたんです。

※4回目に続く

(写真/酒井康治=日経クロストレンド編集)